片思い
2月14日
それは年に一度のチャンスの日
【片思い】
至る所に設置されたバレンタインコーナーを見て、斎藤は深々と溜息をついた。
可愛らしくラッピングされた様々なチョコレート
漂ってくる甘い匂いだけで、気持ち悪くなりそうだ。
(…やはり止めよう。)
バレンタインなど、自分には似合わない。こういうのは女らしい者でないとダメだ。
それに、あの人は甘いの苦手なはずだ。苦手としている物をわざわざ送りつけても迷惑だろう。
くるりと踵を返すと足早に去っていった。
バレンタイン当日の月曜、斎藤が普段通りに学校に登校すると、両手に山のようにチョコレートを持った沖田の姿があった。
「あ、一君、おはよ。」
「ああ、おはよう。凄いな。」
じっと抱えられたチョコレートの山を見つめ感嘆する。
「まぁね。あ、一君はくれないの?」
「…あんた、そんなにあるのに足りんのか?」
糖尿病になっても知らんぞ、と真顔で説教する斎藤に沖田は苦渋し肩を竦める。
「そうじゃないけど…まぁ、一君だし仕方ないか。でも、流石に土方さんには渡すんでしょ?」
「………。」
無言で首を振る斎藤に、ポカンとしてしまった沖田が、驚きに目を見張った。
「え、それ、本気?」
「…苦手な物を渡しても仕方あるまい。それに…似合わんだろう…。」
ぽつりと呟かれた言葉に、溜息しかでてこない。
まぁ、確かに…斎藤は普段、女らしいとは言えない。流石に制服は女子用を着てはいるが、口調から性格はかなり男前だ。
だから、斎藤の考えている事も分からなくはない。
が、しかし…
「似合う、似合わないの問題じゃないんじゃない?一君、土方さんが好きなんでしょ。大体、ずっと片思いしてるつもり?」
「……それは…。」
沖田の言葉にうっと言葉につまり、俯く。分かってはいるのだ、このままでは前に進まない事は…。でも、『こんな自分が』と思うと足が竦んで動かなくなってしまう。
「はぁ…。土方さん、今年卒業だよ。最後のチャンスだって気合い入れてる子だっている。一君は、最後のチャンスを捨てる気?」
「………。」
分かってる。だからこそ、今まで買おうともしなかったチョコレート売り場までいったのだ。
「たく…仕方ないね、一君は。」
溜息と共に、コツンと固い何かが頭に当たった。
「本当は今日のおやつにしようと思ったけど、チョコレートいっぱいあるしね…あげるよ。それは、僕が買ったやつだから、気にしなくていいよ。」
苦笑と共に手渡されたのは、『小枝』だった。しかもバレンタインVersion。
「それも一応、チョコレートだし文句ないよね。」
「でも…いいのか、貰って。」
「言ったでしょ、おやつにしようと買ったって。でも、今日はいっぱいあるから必要ないしね。ほら、さっさと渡しに行きなよ。三年生は早く帰るんだから、間に合わないよ。」
ぐっと背中を押され、よろめいてしまったが体勢を整え後ろを振り向く。
「総司…ありがとう。」
そう言い残すと、あっという間に教室を出ていった。
「…怖がんなくても、一君なら大丈夫なのに。」
二人の気持ちを知ってる側としてはもどかしくて仕方ない。
でも、それも今日で終わると思うと実にスッキリとした気持ちになる。
きっと幸せそうに戻ってくるだろう親友を、どうからかってやろうか。沖田は楽しげに笑った。
End
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