ある一つの物語【前編】
これは昔むかしの、ある国での物語。


街の外れに、少々お人よし過ぎる父親としっかり者の娘が住んでいた。

父親は、昔城仕えをしていたとかで近所の子供達に剣術を教えていた。性格は、ひどくお人よしで陽気な人間だった。


一方娘はというと、冷静でお人よしな父親をフォローするしっかり者であった。小柄ないかにも儚い美しい容姿を裏切るかのように腕が立ち街の男達は、そう簡単に娘に迫る事は出来なかった。



そんな親子の運命を変えたのは、人外の生き物だった。


ある日、父である近藤は隣町の方に住む友人を訪ねた事が始まりだった。


家を出ていく時は嬉しげに意気揚々と向かったのに、自宅に帰ってきた父は娘である一の姿を見た途端に『すまない』と号泣してしまった。


何故かと理由を聞けば、家に帰る途中に道に迷い怪しげな城に迷い込み、恐ろしい野獣に出会ったらしい。そして野獣に娘はいるかと聞かれ、つい馬鹿正直に答えてしまったと。そうしたら、野獣はその辺に咲いてた薔薇を折り父に押し付けると『明日、娘を寄越せ』と一方的に姿を消したそうだ。


別に一方的にあっちが言っただけで了承したわけでもないのだから、わざわざ出向いてやる必要はないのだが、もし…もし家にまで押しかけられても面倒だ。泣いて謝る父に安心するように告げ、一はスタスタと怪しげな城へと向かった。






「…………。」

目の前にいる人外の生き物に、頭痛を感じ頭を押さえる。


「ふん、遅い。この俺を待たせるとは…。これだから、下賎な民は…」


とぐちぐちと見下した物言いでほざく野獣に苛立ちが溜まる。

「まぁ、いい。貴様、光栄に思うがいい。我が妻に選ばれた事に。」


「…ぬかせ、人外の分際で。」

誇らしげに戯れ事をぬかす野獣に、父が押し付けられた薔薇を投げつける。


「ぐおっ!」


「あんたが父に押し付けた薔薇は返した、もう用はない。」


くるりと踵を返すと、その場を立ち去るべく一歩を踏み出す。


「待て、約束が…」


「約束?あんたが一方的に言い放っただけで、俺の父は了承をしていない。それに¨娘を寄越せ¨と言ったらしいが、俺はちゃんとここに来た。故に一方的な約束も果たした事になる。その後は、どうしようと俺の勝手だ。」


呆気に取られる野獣に、勝ち誇ったように薄く笑うと、今度こそその場を後にし家へと向かう。







後少しで森を抜ける処まで差し掛かった時、前方から馬が駆けてくる音が聞こえ視線をやると、馬の背の上に恋人の姿を見つけ声を上げる。


「土方さん!」


「一!」


一の姿に気づいた土方は、馬を止めると、馬から降りて一をぎゅっと抱きしめる。


「大丈夫だったか?」


「はい。…どうして、ここに?」


土方の力強い腕の中、コテリと首を傾げる。


「近藤さんが血相を変えて家に来て、事情を話してくれてな。泣きそうな顔で『一を、助けてくれ!』ってな。無茶するんじゃねぇよ、たく…。心配した。」


苦笑を浮かべながら、一の癖のある柔らかな長い髪を撫でると、コツリと額を小突く。


「すみません…。」


しゅんと肩を落としながらも、心配してくれた事に嬉しくなり微笑む。


「それで、野獣ってのはどんなだった。」


斎藤を馬に乗せ、自分も後ろに乗ると手綱を握る。ゆっくり馬を歩ませながら、ふと尋ねるとみるみる一の顔は不快げに彩られた。土方からは表情は見えないが、雰囲気が変わった事で悟った。


「高慢な自己中心的な獣でした。」

スパンと言い切ると、先程の事を土方に話す。



「くっ…おま、それは屁理屈、だろ…」


一が言い捨てた言葉にくつくつと笑いながら肩を震わせる土方に、一はむぅっとした表情で振り向く。


「屁理屈だろうと、いいんです。それにアレも追っては来ませんでしたし。」


「まぁ…そうだけどよ。(全く、今まで何をやってたんだか、あの馬鹿は…)」


「…土方さん?」


急に黙り込んでしまった土方に不安になったのだろう一が心配そうに見つめてくる。


「早く帰るか。近藤さんが、心配してる。」


「…はい」



何かを隠すように笑うと、馬を走らせ街へと向かった。



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配置

ベル:一ちゃん
野獣:風間
ガストン?:土方さん
パパ:近藤さん


まさかの野獣が風間ですが、土斎です(笑)野獣を土方さんにしても良かったけど、呪いをかけられる理由が浮かばない。や、魔法使い風間の一方的な嫌がらせっていうのも有りだけど、土方さんは無理矢理、パパを牢屋に閉じ込めたりしないなと…(笑)
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リゼ