願わくは貴方と共に【6】

千鶴は部屋でほわほわとした気持ちで、ぎゅっと左之助に買ってもらった縫いぐるみを抱きしめる。


確かに記憶がないのは寂しいけれど…


それでも今日、左之助と過ごした一時にほこりと胸が温かくなる。


「えへへ…」


ふにゃりと笑みを浮かべると、縫いぐるみを抱きしめたまま、コロリとベッドに寝転がる。



明後日は土曜で、朔と一緒に試衛館にいく予定だ。


(早く明後日にならないかなぁ…)

わくわくと胸を弾ませ、眠りについた。








■■■■


「朔くん、朝から機嫌悪いみたいだけど、どうしたの?ハッキリいって、迷惑なんだけど。」

教室がピリピリとした空気が漂い、周りから¨何とかしてくれ¨と縋るような視線に辟易した総司は、原因である朔を問い詰める事にした。


「……すまない。」


自分でも自覚はあったのだろう、素直に謝ると溜息をついた。


「で、どうしたってーのさ。あの人と喧嘩でもしたの?」


前席の椅子に座り、朔と向かい合うと目を細め楽しげに笑う。


「いや…。その、千鶴と左之の事でな…」


昨日の二人の姿を思い出し、溜息をついた。


「何か、意外な原因にビックリだよ。」


左之助はともかく千鶴に対し不機嫌になるなど、ありえないと思っていた。


「意外?」


「だって、千鶴ちゃんが不機嫌の原因なんて、朔くんにはありえない事だと思ってたから。」



¨違う、なんて言わせないよ¨といわんばかりの笑顔に、朔もぐっと言葉に詰まる。


「……複雑なだけだ。」


ポツリと呟くと、昨日の事を話し出した。



「……ふーん。記憶がないにしても、二人が会う機会を増やすのはいい事だと思うよ。実際、それなりに上手くいったんでしょ。何が、そんなに複雑なのかな。」


総司の問いに気まずそうに顔をしかめる。


これは、ただの自分の我が儘でしかない。


「上手くいったのはいいんだ。千鶴も嬉しそうだったし…。だが、その…少し不安というか、寂しくなったというか…」


しどろもどろに告げた言葉に、総司は呆れたような表情を浮かべた。


「つまり何、千鶴ちゃんが姉離れしそうなのが嫌だって事?」


「うっ…いや、その…」


視線をうろうろと泳がし、もじもじと手をいじる朔に、ますます呆れ溜息をつく。


「くっだらないなぁ。っていうか、君達はお互いに依存しすぎだよね。少しくらい離れた方がいいと思うけど。」


「ぅ……やはり、そうだろうか。」

しゅんっと肩を落とし落ち込む朔に、やれやれと溜息をつくとポンッと頭を撫でる。


「大事な妹の恋は、複雑だと思うけど、見守ってあげなよ。千鶴ちゃんだって、朔くんの時は複雑だったと思うよ。」


慰めるように、よしよしと朔の頭を撫でると笑みを浮かべる。


「…そうだな。総司…ありがとう」

朔も、すっきりとした表情で笑みを浮かべ、教室に漂っていたピリピリとした空気は消え去った。






また、沖田と斎藤は付き合っていると誤解され、学校中に広まってしまったのは、思いもよらぬ(二人にとって)誤算だった。


『あーあ…馬鹿ね二人共。私、しーらない。』


一部始終を見守っていた美咲が、ひそかに匙をなげていた事を知ることはなかった。




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