願わくば貴方が幸せであることを【1】
ずっと想いを殺していた。
伝えてはならぬと…
剣に生き死ぬ為には必要のない感情だと
何より、伝えて貴方に負担をかけたくはなかった。
いつも新撰組の為、重荷を一人で背負い抱え込んでいたから。
…本当は、ただ恐かったのかもしれぬ。
拒絶されてしまった後、己がどうなるのか
弱かった…。
弱かったのだ、自分は。
だから、命が消えるその時になって後悔している。
別れる時、想いを告げればよかった。きっと貴方は困るだろうが、それでも《仕方ねぇ奴だ》と笑ってくれたのではないか。
ああ…そういえば、貴方の笑った顔など暫く見ていなかった。
いつも眉間に皺を寄せ、難しい顔していた。本来は、表情豊かな人であったのに…。
願わくば貴方が幸せであることを…
■■■■■
西暦2010年
激動を駆け抜けた幕末から、既に150年もたった世に、新撰組三番組組長 斎藤一は新たな人生を歩んでいた。
「む…もう、こんな時間か。」
支度をせねば間に合わぬな
そう呟くと、素振りを止め竹刀を片付ける。
現在の時刻は早朝6時30分
やっと、ある程度の人間が起き出す頃であろう。
しかし、斎藤はあの頃の癖なのかそれよりも早く目が覚める。
その為、起きてから暫くは竹刀を振るっている。
その辺りは、あの頃とは変わらぬなと思いながら、家に入り着替える為に部屋に戻る。
「…はぁ。」
毎日、着替える時や風呂に入る時は憂鬱な気分になる。
何故ならば、幕末のあの頃とは余りにも異なる身体を思い知らされるからだ。
以前よりも細く、どんなに鍛えても、柔らかさを保つ身体。何よりも男にはあるはずのない胸元にある膨らみ…。
そう、斎藤は今世では【女】として生を受けている。
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