願わくば貴方が幸せであることを【59】
あれから斎藤の生活は少し変わった。
昼休みに、総司と美咲に冷やかされながら土方に会いに行くようになった。
そして帰りは未だに土方に送ってもらい、週末には土方の家に通うようになった。
総司と美咲に
¨何、その通い妻みたいな感じ¨
と呆れたように笑われるが、それを土方に言ったら
¨…そのうち¨通い¨じゃなくなるがな…¨
と普通に返され、恥ずかしいやら、嬉しいやらで泣きそうになったのは忘れられない。
「朔?」
「あ…、すみません。」
土方に呼ばれ、ハッと意識を戻すとぎゅっと背後から抱きしめられた。
「何か悩み事か?何度か呼んだんだが…。」
悪戯に耳元で低く、まるで情事の時のような甘く響く声で囁かれ、ぴくりと身体を震わせる。
たまに土方は、朔の弱点をつき意地悪な真似をする事がある。
それは専ら朔が、何かに意識を飛ばしている時なのだが、朔自身は気づいていない。
「いえ…その、夢、みたいだと思って…」
頬を赤らめながら、たどたどしく告げられた言葉に、土方は愛しげに笑みを浮かべる。
「あの頃は、土方さんと…その、このような事になるとは思っていませんでしたし…。」
「あー…まぁな。」
¨俺も、さすがに予想してなかったな¨と朔を抱きしめたまま苦笑すると、目の前に映る白い首筋に口づける。
ただ、それだけで真っ赤になり身体を強張らせる朔が、可愛らしくて…とても愛しい。
「ただ…貴方が幸せで、笑っていてくれればいいと思っていましたから…。」
ぽつり
ぽつり
零れた朔の健気な願いに、土方は細く頼りないまでに華奢な彼女の身体をきつく抱きしめた。
「お前が側にいれば、俺は幸せだ。
だから…俺の側で笑ってろ。」
あの頃
命が消える間際に願った想い
¨願わくは貴方が幸せであることを¨
その願いが叶ったのは、一途な二人の為に150年越しに起こった奇跡…なのかもしれない
End
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