願わくば貴方が幸せであることを【49】
土方の家は、1LKの小綺麗なマンションの五階にあった。
家具も落ち着いた色合いのシンプルな物だったが、全体的に洒落た雰囲気の部屋だった。
リビングのソファに緊張に体を強張らせながら座り、落ち着かないとばかりにきょろきょろと視線を泳がせる。
すると、そこへ土方が戻って来て、くつりと笑った。
「そんなに緊張されたら、こっちまで緊張しちまうんだが。」
おかしそうに笑い、斎藤の隣に座る。
「す、すみません。」
土方にそう言われ、ますます堅くなってしまう斎藤をくつりと笑うと、肩に手を回し抱き寄せる。
「あ、あの…。」
土方の身体に密着しカァッと顔を赤らめ、戸惑いに土方を見上げる。
「学校も家でも、緊張しっぱなしで疲れるだろーが。ここなら、奴も来ないだろうし、少しは気を抜いとけ。」
優しい声音で囁き、柔らかな癖のある斎藤の髪を撫でる。
「…ありがとうございます。」
土方の気遣いに胸が熱くなり、そっと目を伏せると身体の力を抜き、甘えるように土方に寄り掛かる。
しばらく穏やかな空気が流れたが、それが一変したのは寝る時の事だった。
「お前は、寝室のベッドで寝ろ。俺はこのソファで寝る。」
腕を組み、眉間に皺をつくり斎藤を睨む土方。
「土方さんに、そんな事させられません。俺がソファで寝ます。」
負けずに睨み返し、キッパリと言い放つ斎藤。
「俺だって、お前をソファに寝かせて、自分がのうのうとベッドに寝るなんて事は、ごめんだ。いいから、客人のお前がベッドを使え。」
「それは俺とて同じです。家主の土方さんがベッドで寝るべきです。」
どちらも意見を譲らず、膠着状態が続いた。
土方は頭を抱えると深い溜め息をつく。
「…なら、一緒に寝るか?」
「えっ…!?」
表情なく言い放った土方に、驚き目を見張った斎藤は、みるみる内に顔を赤くする。
「仕方ねぇよなぁ、斎藤もソファで寝るっーし…狭いが、くっついて寝りゃ大丈夫だろ。」
「は…え、それは…」
うろたえる斎藤に対し、土方はニヤリと笑みを浮かべると、最終宣告を告げる。
「まぁ、据え膳食わぬは男の恥っーしな…斎藤が、どうしてもソファで寝るっーなら…覚悟しろよ?」
「や、あの…」
顔を可哀相なくらい真っ赤にし、うろたえる斎藤に、苦笑する。
「それが嫌なら、大人しくベッドを使え。」
苦笑を浮かべたまま斎藤の髪を撫でると、小さく頷くのが分かった。
「おやすみ。」
大人しく寝室に向かう斎藤に声をかけると、
「おやすみなさい。」
とペコリと頭を下げた。そのまま部屋に行くかと思ったが、何故か立ち止まった。
「斎藤?」
「あの…その…嫌だから、ベッドを使わせてもらうわけじゃ、ありませんから…。」
頬を赤く染め、視線を泳がせながら告げたと思ったら、パタパタと音を立てながら寝室に姿を消した。
「………勘弁してくれ。本当に襲っちまうだろうが…。」
ガクリとうなだれ呟かれた言葉がリビングに響いた。
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