願わくば貴方が幸せであることを【46】

少しのコール音の後、待ち望んだ低めの、それでいて艶のある声が聞こえた。


「…斎藤、どうした?」


「ひ、じかたさん…。」


「斎藤、大丈夫か?」

声が震えているのが伝わったのだろう、穏やかな声が一気に心配そうな声に変わった。


「あの、俺…どうしたら、いいのか分からなくて。」


ぎゅっと携帯を握る力を強める。

「…今から、お前ん家に行くから少し待ってろ。着いたら連絡するから、外に出るなよ。」


「は、い…。」


切れた電話を、ぎゅっと握りしめ、膝を抱えひたすら土方からの連絡を待った。




これ以上ないのではないかと思えるほど長く感じる時間。


一人うずくまり過ごした。


ふと流れた着信音に、飛びつくようにボタンを押し耳に当てる。


「…ひじかたさん?」


「あぁ。今、着いた…少し、出て来れるか?」


「はい!」


¨待ってる¨と言葉を残し切れた携帯を大切にテーブルに置き、散らばったままの、あの写真と封筒を手に持ち部屋を出る。


家族に知られないように、こっそりと家の外に出ると、門の手前に見慣れた車と、車に寄り掛かり立っている姿を目にし、嬉しさと安堵が胸に広がる。


パタパタと駆け寄ると、土方にぎゅっと抱き着く。


「お、おい、斎藤?」


驚いたような土方の声が聞こえたが、それでも抱き着くのを止めずにいると、苦笑と共にポンポンと背中を宥めるように叩かれた。


「お前、上着も着ねぇで、風邪引くだろうが。ほら、車ん中入れ。」


困ったように笑う土方に、今の自分の格好を見て、恥ずかしさに顔を赤くする。


もう風呂も済ませた斎藤は、パジャマのままだったのだ。


「あ…すみません。」


パッと土方から離れ、促されるまま車に乗る。


「ほら、これも着とけ。」


そういって渡された土方の上着を、頬を染めつつ羽織る。


上着から仄かに香る土方の匂いに、ぎゅっと握りしめる。


「悪いな、こんな時間に外に連れ出して。」


困ったような顔で、くしゃりと斎藤の髪を撫でる土方に、ふるふると首を横にふる。


「いえ。元々、俺がお呼び立てしてしまったようなものですから…。」


「いや、俺が勝手に来ちまっただけだ。それで、何があった?」


苦笑しながら肩を竦めると、笑みを消し真剣な表情でこちらを見てくる。


「それが…。先ほど、これを見つけて…。」


そういって、おずおずと不安げな表情を浮かべ、例の封筒を土方に渡す。


土方は、その封筒を見ると途端に眉間に皺を作り厳しい表情で中身を確認する。


「…これは、どこにあった。」


「俺の部屋のベランダです。」


土方に、例の光と発見した時の話をすると、ますます眉間の皺が濃くなった。


「もう、さっさと取っ捕まえるしかねぇな。斎藤…お前2、3日、家を離れられるか?」


「友人の所に泊まると言えば大丈夫だと思います。」


「よし。いきなりだが、安藤の所にでも泊めてもらえ。千鶴の家は、近所過ぎるから犯人に知られちまうだろうからな。」


土方さんの言う通り、千鶴の家は近すぎるし、何より千鶴まで巻き込んでしまう。


だからといって美咲はいいというわけでもないのだが…。


「あ、あの美咲の所でなくてはいけませんか?」


ぎゅっと土方の上着を握りしめ、躊躇いがちに伺う。


「いや、別に何処でも構わねぇが…少しでも事情を知ってる方がいいんじゃねぇのか?…だからっつて総司ん所はダメだからな。」


腕を前で組み、困ったような顔で告げる土方に首を振って¨違う¨と告げる。


「斎藤…?」


何度か金魚のように口をパクパクと開いては閉じを繰り返し、俯いた俺を心配そうに呼ぶ土方の声が聞こえ、おずおずと土方を見上げると意を決して、ある事を告げる。

「あの…土方さんの所にお邪魔してはいけませんか?」


「…ぁ?」


二人の間に、シーンとした沈黙が降り続いた。


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