願わくば貴方が幸せであることを【39】
気づかぬ間に、いつも降ろしてもらう場所の近くの駐車場に車は停まっていた。
少し疑問に思い首を傾げつつ、車から降り外に出ると何故か土方さんも車から出てきた。
「土方さん…?」
「危ねーから、家の前まで送ってく。」
「だ、大丈夫です。わざわざ土方さんにそこまでして頂かなくても…。」
わたわたと¨一人で大丈夫¨と主張した俺に、土方さんは呆れたように笑った。
「お前、今は出来るだけ一人にならない方がいいんだろうが。」
「……し、しかし、流石に家は大丈夫だと…。」
まさか、家を知られてるとは思えない。
「まぁ、¨念のため¨だな。住所も調べようと思えば、結構簡単だしなぁ…。」
苦笑し、斎藤の肩をポンポンと叩くと「行くぞ」といって歩き出したので、土方の2、3歩後ろ…
¨あの頃¨と同じようについていった。
「あの…ありがとうございました。」
結局、家まで土方に送らせてしまい申し訳なく肩を縮こまりながら、頭を下げる。
「お前…そういうとこ全然変わってねぇんだな。そんな畏まることねぇのに。」
愉快そうにくつくつと笑った土方は、すっと真面目な表情になると口を開く。
「斎藤、総司にも言われたかもしれねぇが、暫くお前は絶対に一人になるな。必ず、総司と安藤の側にいろ。後、何かあったら総司でもいいが、俺や原田に相談しろ。…いいな。」
「はい。」
土方さんの言葉に素直に頷くと、くしゃりと頭を撫でられた。
「なるたけ早く、お前が一人でいても大丈夫なようにしてやるから、それまで辛抱してくれ。」
気遣うような優しい言葉に涙が出そうになり、ふるふると首を振る。
「…皆が、土方さんがいろいろと気遣って下さいますので大丈夫です。」
本当に、今の俺は守られてばかりだ。でも何故か、それがこそばゆくも嬉しいと思う。
「そうか。じゃぁ、また明日な。」
「はい。ありがとうございます。」
ペコリと頭を下げ、去っていく大きな背中を見送る。
ほかほかと暖かな気分で帰宅した俺を、家族が不思議そうに見てきた。
「まったく、無意識ってのは怖ぇな。」
車の中で、苦笑を浮かべポツリと呟く。
頼りなげな小さな身体に、そっと伏せられた目が儚くも艶が見え隠れし、己の気持ちの赴くまま抱きすくめ、それ以上の事までと望む本能を、土方は必死に押さえ込む羽目になってしまった。
しかも斎藤は、あの頃の様に自分には警戒も何も無く、ただ純粋に信頼し慕っているのを隠しもしないので、うっかり¨抵抗¨しないのではないかという考えまで過ぎってしまった。
「…気持ちはわからなくはねぇんだがな。でも、アイツを傷つけ怯えさせるってのは許せねぇ。」
¨悪いな¨と誰にともなく呟くと、煙草を吸いふぅっと煙りと共に息を吐き出した。
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