願わくば貴方が幸せであることを【37】
「………はぁ。」
「随分とでかい溜め息だな。」
苦笑と共にふってきた言葉に、ハッと横を向く。
「あ、す、すみません。」
家まで土方さんに送ってもらっているというのに、つい今日の事を思い出して憂鬱な気分になり、失礼にも深々と溜め息をついてしまった。
思わず身体を強張らせ謝罪した俺に、土方さんはくつくつと笑い、運転中の為か前を見たまま俺の頭を撫でた。
「謝んなくていい。総司に聞いたが、実際溜め息をつきたくなるよなぁ。」
苦笑しながら告げられた言葉に、ぎょっとする。
「あ、あの…」
「噂になってたんだよ。で、総司を問い詰めたら、今のお前が大変な目に合ってることを教えてくれてな。あ…俺が、無理矢理聞きだしたんでな、総司のこと責めないでやってくれ。」
ずるい。
¨悪いな¨と、チラリとこちらを見て申し訳なさそうな顔でをされたら、責める事など出来るはずない。
「…わかりました。」
「おう。で…だいぶ参ってるようだが、大丈夫なのか?」
「…総司も美咲も、いろいろと助けてくれるので…。ただ、このままの状態が続くのは正直いって、キツイです。」
あまり心配をかけるような事は言いたくないのだが、だからといって¨大丈夫¨と嘘でも強がる事ができないくらいには、精神的に参ってしまったようだ。
「………お前が、すんなり¨キツイ¨なんて言うとは、よっぽどだな。」
「そうでしょうか…。」
確かに、あまり愚痴などは言わぬが…。土方先生にまで、そう言われてしまうほどなのだろうかと首を傾げる。
「ああ。お前、どんなに辛い時でも誰にも言わずに一人で溜め込んじまうし、なのに無理な仕事も汚い仕事も文句も言わずに坦々とこなしちまうし…そうさせちまったのは俺だが、お前のそういうとこ心配だった。」
「え………。」
ただ前を向き運転をしながら、柔らかな笑みを浮かべながら告げられた内容に、驚き目を見張る。
あまりに、あっさりとした話し方だった為、そのまま普通に納得してしまいそうになった。
だが、今の土方さんにとっては、入学したばかりの生徒で…そこまで深い付き合いではないはずだし、何より¨仕事¨と言った。
それは、今の俺には当て嵌まらない。
当て嵌まるのは……
「…ふ、くちょう…」
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