願わくば貴方が幸せであることを【30】
「じゃぁ土方さん、一君のことお願いします。ちゃーんと、送り届けて下さいよ。」
「ああ。分かってるっーの。何だお前はいいのか?」
土方さんは車の鍵を見せ、¨乗ってかないのか¨と総司に聞くが、当の本人はにんまりと俺達をみて笑う。
「やですよ。お邪魔虫にはなりたくないですしー。じゃ、僕は帰りますけど、土方さん…一君のこと襲わないで下さいよ。」
「馬鹿いってんじゃねぇ!いいから、もう帰れ。」
「な、待て、総司!」
ケタケタ笑いながら去って行こうとする総司を慌てて呼び止めるが、あっさり無視されてしまった。
「…………。」
「じゃぁ、帰るか。」
「あ、あの…俺、一人で帰れます。わざわざ先生に送ってもらうなど…」
顔を見ることができず、俯き足元を見つめる。
「…今日は俺で我慢しろ。」
溜め息をつかれ、苦みを含んだ声で告げられた言葉にパッと顔を上げ土方先生を見る。
(何故、そのような苦しそうな顔をするのですか…)
「その…迷惑かけたくないんです。俺は、別に一人で平気ですし…わざわざ送ってもらうのは悪いです。」
ぽつぽつと、一人で大丈夫だと説得していると、ぐいっと腕を掴まれ引っ張られた。
「ぐだぐだ言ってねぇで、大人しく送られろ。何かあったらどうするんだ。」
腕を引っ張られたまま、土方さんの車まで連れてこられ、問答無用とばかりに助手席に座らされた。
「んな、不服そうな顔すんじゃねぇよ。」
「…すみません。」
静かな車の中で、憮然と進む景色を見ていると呆れたような声が横から聞こえてきた。
「確かに、お前は強い。だけどな、女だってこと忘れんな。もし、力で押さえ付けられるような事になったら、逃げられねぇだろ。」
淡々と、しかし優しげに告げられた言葉にぎゅっと手を握り締める。
「…大丈夫です。俺を襲うような物好きはいないでしょうし、いたとしても返り討ちにします。」
確かに、今は女としと生きている。それでも、そこらの男には負けないくらい鍛えてるし、自信もある。
女だというだけで、見くびられるのは嫌だ。
「…………。」
土方さんは無言で、人通りのない路肩に車を停めると、冷ややかな表情でこちらを見てきた。
怒らせてしまったと、ヒヤリと心が冷える中、それでも自分のコンプレックスでもある性についてを改める事は出来ない。
「本当に大丈夫だと思うのか?」
低く冷たく響く声音に、酷く悲しくなるが、それでも¨大丈夫¨と頷く。
「そうか…」
低く呟き、深々と溜め息をつくと見を乗り出し、いきなり俺に覆いかぶさるような体勢になる。
「なっ……!?」
両手を頭上で一纏めで掴まれ、至近距離にある土方さんの顔に、驚き目を見張る。
(な、何故このような…)
「大丈夫っつたよな。こんな風に押さえ付けられたら、どうするんだ?返り討ちにしてみろ。」
「っ………。」
きつく睨まれ、¨抵抗してみろ¨と挑発する土方さんに、むっと眉を寄せると力を込め逃げようとする。
しかし…
「ん…っ…。」
土方さんは、片手で俺の両手を拘束しているのに、びくともしない。
肩をよじったりといろいろ試みるが、たいして効果はなく、ただ気持ちだけが焦っていく。
「なぁ、これで大丈夫なのか?全然抵抗になってねぇぞ。」
「くっ……」
「このままだと、俺に好き勝手にヤラレちまうがいいのか?」
「………。」
ふるふると首を横にふり、精一杯力をいれる。
土方は、その様子を冷めた目で見つめ、斎藤の顎を空いている片手で上向かせる。
そして、わざとゆっくりと顔を近づけていく。
「あ……。」
土方が何をしようとしているのか、理解した斎藤はぎゅっと目を閉じ身体を強張らせる。
「…馬鹿。何、諦めてやがる。それじゃ、簡単にヤラレちまうぞ。」
くつりと笑う声が聞こえ、おずおずと目を開けば困ったような呆れたような顔で苦笑する土方さんが見えた。
「あ…。」
てっきり、あのまま口づけられると思ってしまった自分に羞恥が込み上げ真っ赤に顔を染めあげる。
いつの間にか、両手は解放されたようで、赤くなった顔を両手で隠すように覆う。
「なぁ、斎藤…頼むから、自分がどう周りから見られてるか自覚してくれ。お前が、襲われてからでは遅いんだ。」
その言葉と共に、土方さんにぎゅっと抱きしめられた。
「お前が傷ついたりするのは嫌だ。だから、守らせてくれ。」
そう告げられ、髪に優しくキスをされ、思わずぎゅっと土方さんの服を縋るように握り締める。
「……迷惑じゃ、ありませんか?」
小さく囁くような斎藤の言葉に、土方はくつりと笑うと目の前にある柔らかな髪をゆっくりと撫でる。
「迷惑だったら、¨守らせろ¨なんて言わねぇよ。」
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あれ?まだ、この二人できてないよね?土方さんが暴走してしまった(泣)
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