願わくば貴方が幸せであることを【28】
先程までの、ふざけた態度が一変し痛いくらい真面目な顔をされ、ただ¨現実でも夢でも腹の立つ奴だ¨と言っただけで、沖田がこんな風になるとは思っていなかったのだ。

いつもなら、軽く流すだろうに…

「ねぇ、どういう意味ですか?」


「…別に対した意味はねぇよ。」


まさか、こんなに食いついてくるとは思っておらず、困惑し訝しげに沖田を見る。


「夢…って言ってましたよね。夢に僕が出てきたんですか?」


「…あぁ。てめぇだけじゃねぇ、近藤さんに新八や平助、原田も出てきた。あとは、雪村まで出てきたな。最近、ずっとだ。」


「………もう一人いるんじゃないですか?」


(あの夢なら、1番近くにいた¨彼¨が出てこないはずがない)


「何だって、んなこと聞きたがるんだよ。それに、もう一人って何でお前が…「いいから!いいから、答えて下さい!もう一人いるでしょう!?」


訝しげに、中々話そうとしない土方に焦れて沖田は思わず怒鳴るように問いただす。


「あ、あぁ。誰かはわからねぇが…。」


沖田の様子に圧され、戸惑いながらそう告げると、深々と深い溜め息をつかれ、ひくりと頬が引き攣る。


「何だって、1番肝心なとこをわからないかなぁ。」


「うるせぇな。ただの夢だろうが。」


呆れたような顔で見てくる沖田に苛立ち、そう吐き捨てる。


「…早く思い出さないと、横から掻っ攫われても知りませんよ。」

そう意味ありげなことを告げ、沖田はさっさと屋上を去っていった。

「…何を言ってやがんだ、アイツは」


眉を吊り上げ、煙草を加えると手摺りに寄り掛かり空を見上げた。









「土方さんが結構、早く思い出しそうなのは意外だったなぁ。てっきり佐之さんの方が先だと思ってたのに。」


総司は、人気のない階段を下りながら楽しそうに呟いた。


あの土方の様子なら、そう遠くない内に思い出すだろう。その時、土方と斎藤がどうなるのか、楽しくなりそうだ。





記憶のない今はまだ、¨教師¨というのが引っかかっている。

けれど、すべてを思い出したら、そんなこと関係なくなるだろう。


何せ、斎藤がずっと密かに土方に想いを寄せていたように土方も同じように斎藤を想っていた。


きっと、前世では遂げられなかった分、全力で斎藤を掴まえるだろう。



そう思うと、沖田としては斎藤が気の毒になるが、本人にしたら幸せなのかもしれない。



「にしても、無意識って怖いなぁ(笑)」


土方が立っていた場所からは、中庭がよく見えた。

いや、正しくは¨中庭にいる人物¨か…


土方の視線は、無意識なのだろうがその人物を見ていた。



「あーあ、僕としては誰よりも近藤さんが思い出してくれたらいいんだけどなぁ。」


くつくつと楽しげな声が、人気のない廊下に小さく響いて消えた。



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