願わくば貴方が幸せであることを【23】
斎藤が、職員室に入ると難しい顔で座っている土方の姿が目に入り表情にこそ出さなかったが、酷く心配になった。
昔、幕府の情勢が悪くて新撰組のことで思い悩んでいた時に、よく見かけた姿だった。
よく、一人で抱え込む方だから…
「…土方、先生…。」
「………。」
思わず、【副長】と言ってしまいそうになり、慌てて言い直したが土方は聞こえなかったのか、ただ煙草を加えたまま前を睨むように見つめたままだ。
「土方先生。」
「っ…あ、斎藤か。悪い、気付かなかった。」
もう一度声をかけると、ハッとしたように目を見開き斎藤の方に顔を向けた。
「いえ…。顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。ちょっと寝不足なだけだ。」
《悪かったな》と苦笑し、何でもないかのように振る舞う土方だが、一瞬表情がピクリと強張ったのを斎藤は見逃さなかった。
「…あまり、無理はなさらないでください。」
「あぁ。心配してくれてありがとな。」
土方が笑って頭を撫でてくるが、斎藤の心中は【今の自分では何もできないのだ】という現実が重くのしかかっていた。
昔も、何が出来たというのはなかったかも知れぬが
それでも、土方の為、新撰組の為に刀を振るう事ができた。
恐らく些細な部分になるのだろうが、土方の話しを聞いてたまに意見を述べたりもした。
でも今は、何を悩んでいるのか聞く事もできない。
今の土方にとって斎藤は子供でしかない。そんな相手に、何を話すというのか。
「課題を集めて、持って参りました。」
「あぁ。ご苦労だったな。」
撫でるのを止め、斎藤から課題を受け取る。
「あの…良かったらコレを…。」
そう言って、斎藤はポケットの中から何かを取り出し土方の机の上に置く。
コロリと転がるのは、可愛らしい包装に包まれた飴玉だった。
「疲れた時は、甘いモノを食べるといいらしいですから…。」
本当は安藤が斎藤にとくれたモノだ。しかし土方の気持ちを少しでも楽にできるのならと、構わないと思ったのだった。
「では…失礼します。」
何故か、とても恥ずかしくなり慌てて頭を下げると職員室を足早に去っていった。
「…疲れた時は甘いモノ、か…。」
ふっと笑みを浮かべると、飴玉を手にとり可愛らしい包装を眺める。
「随分と可愛いモノを寄越したもんだ。」
あまり斎藤の持ち物にはイメージしにくいモノである。何となく、シンプルな物を好みそうであったし、あまり甘い物を好むイメージはなかった。
そのギャップが、妙に可愛らしく思えて、さっきまで胸の中にあったモヤモヤが消えてしまった。
「……甘ぇ。」
ピンク色の飴玉を口に入れると、いちごミルクの甘い味が広がり、ポツリと呟くと、つい先程まで隣にいた女子生徒を思い浮かべ、くつりと笑った。
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