願わくば貴方が幸せであることを【21】
GWも終わり、久しぶりに登校した教室はとても賑やかなものだった。



もう既に仲の良いグループができていて、固まってそれぞれ連休中の出来事を報告しあってるようだ。


「あ、おはよう、斎藤さん。」


「あぁ、おはよう。」

席に着くと近くにいたグループの中の一人に声をかけられた。


正直、普段は総司と一緒に行動することが多いこともあり、俺はこれといったグループにも属してはいない。また人付き合いが苦手な事もあり、話はするが特別に仲の良い者など総司を抜かしてはいなかった。


「ねぇ、斎藤さんはGWはどこかに遊びに行ったりしたの?」


「幼なじみや家族と近場に出掛けたぐらいだな。どこも人が多くて、この時期に観光地に行くのは避けている。」


「あー、確かに。うざいよね、あんなに人がいると。」


周りにいた女子達が、笑いながら頷き合う。実際、旅行に行ったという者も、人混みで思ったように動けなかったと苦笑しながら、体験談を話していた。



「あ、ずっと斎藤さんに聞きたいことがあったんだけど…斎藤さんって、沖田君と付き合ってるの?」


「は…?」


一人の女子…確か【安藤】という名前だったはず。安藤が、総司との関係を問う質問を投げてきた途端、周りにいた者達も「あ、ソレ、私も聞きたかったー!」と次々と同意を示し、「どうなの?」と迫ってきた。



「いや…総司とは、付き合ってなどない。」



周りの勢いに圧されつつ、事実を告げると一瞬シーンと静まったかと思うと、一斉に「ええぇー!!付き合ってないのぉ!?」とした声が響いた。


「な…なんだ。」


ぎょっとして周りを見渡すが、皆「信じられない」と言わんばかりの表情をしていて、何故そんな風に驚かれるのか分からず首を傾げるしかなかった。



「だって、いつも二人でいるし、お互い名前で呼び合ってるし…何より、斎藤さんも沖田くんも他の人には、どこか一線引いてる所があるのに、お互いに対してはソレがないから、てっきり…」



皆がうんうんと頷く様子に、若干引いてしまった。


「いや、総司とは昔からの知り合いというか、友人だ。」


「え、じゃぁ、恋愛感情とかないの!?」


「ないな。」


俺が総司を好いているなど、どんな悪夢だ。


「へぇ。二人、お似合いなのに。まぁ、殆どの男子と女子には嬉しい真実か…。」


「はぁ…?」


安藤の言葉の意味が分からず、きょとりと首を傾げる。


「(うわぁ、斎藤さんって意外と鈍感っていうか天然?なんか可愛い)」


実は、沖田も斎藤もモテているのだ。だが二人は付き合っているという噂があり諦める人間が多かった。



しかし、斎藤の口から実は付き合ってないという真実がもたらされ、実際教室内のあちこちから喜びの声が聞こえてくる。


それが一切聞こえてないかのように、不思議そうに首を傾げる斎藤はしっかりしてそうで、実は天然なのかもしれないと安藤は、密かにギャップに驚きつつも可愛らしいと思った。



本当は、入学してすぐに話してみたいと思ったのだ。だが、斎藤の凛とした自分達とは違う大人びた雰囲気や、どこか良いところのお嬢様というか…楚々としたところがあり、どこか近付きづらかった。


それは自分だけではなく、皆がそうだったらしく、自然と男女共に斎藤は【高嶺の花】という風に思うようになっていったようだ。




だが、思い切って話しかけてみれば、口調は堅いところがあるが素直に答えてくれ、首を傾げる仕草は年相応に見え可愛らしかった。


「そういえば、斎藤さんとこうやって話すの初めてだよね。私、安藤美咲、改めてよろしくね。」


そういって、にこりと笑い手を差し出してくる安藤に躊躇いつつも応じると更に笑顔になり、くすりと笑うと自分も挨拶するために口を開く。


「ああ。斎藤朔だ。こちらこそよろしく。」







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