願わくば貴方が幸せであることを【17】
道場から車を走らせること10分。大きめなスーパーに着き、土方先生と共に内に入る。



「とりあえずは、野菜と肉か。」


カートにカゴを乗せ進んでいく土方を追いかける。



「あの!私がカートを押しますので、先生は買うものを選んで下さい。」


このままでは、ただ着いて歩くだけになってしまうと前を歩く土方のジャケットの裾を握り訴える。


「あ、ああ。じゃあ、頼む。」


あまりの必死さに呆気にとられた顔をするが、薄く笑みを浮かべ斎藤の頭を軽く撫でた。



それから、土方が次々と食材をカゴに放り込み、たまに斎藤が意見を述べる形になった。


そして肉売り場に来た時の事だった。


「あいつらが居るからな…肉は多めにしといた方がいいだろうな。」


「…そうですね。」


どれくらい必要か、二人で相談していると売り場の店員に声をかけられた。


「こちらでしたら、結構量がありますよ。」


そう言って、業務用なのか他のとは違い、かなりの量が入ったパックを指で指し示してきた。


「そうだな、これを…どれくらい必要だと思う?」


「流石に3パックぐらい買えば充分かと…。あとは通常サイズのを何種類か…。」


「じゃあ、これを3パックに、あとは……。」


次々と注文していく土方に、少し多すぎではないかとも思ったが、永倉達を考えると妥当な事なのかもしれないと黙って立っていた。

「ありがとうございます。ご夫婦で買い物ですか?旦那さんもカッコイイですし、奥様もお綺麗で羨ましいですよ。」



「えっ……!」


「………!」


店員の言葉に驚き、誤解を解かねばと焦るが頭が真っ白になり言葉が出てこない。その間も店員は誉めそやしてくるわ、照れていると思ったのか、微笑ましいげに笑い肉を手渡してきたので、とっさに受け取りカゴに入れる。


《どうやって、否定すればいいのだ。》


相手は悪気はまったくないのだ。笑顔だし、何故か《違う》とは言い出せない雰囲気だ。


だが、このまま誤解されては土方に迷惑が…。



ぐるぐると頭の中で葛藤していると、ポンッと頭に手を乗せられた。



「ああ、ありがとう。だが、コイツは照れ屋なんでな…もうその辺りで勘弁してくれ。」


そう言って苦笑を浮かべると、カートを自分の手に持つと、片手で斎藤の手を握りその場を後にした。













会計を済ませ、車に戻るまで二人はずっと無言のままだった。


助手席に座った斎藤は、チラリと隣の土方を見るが、土方はただ座り前を見ていて話しかける事を拒絶するような雰囲気だった。



《やはり、きちんと店員の言葉を否定すれば良かった。そうすれば土方さんに、このような不快な思いをさせることなどなかったのに…。》


しゅんと肩を落とし、つんと涙が出そうになるのを我慢していると優しく頭を撫でられる感触に驚き、土方を見ると困ったように笑みを浮かべていた。


「悪かったな、斎藤。」


「………?」


何故、土方に謝罪されたのか分からず頭に土方の手を乗せたまま、小首を傾げる。すると、土方はくすりと笑うとポンポンと軽く頭をはたいた。


「勝手に、俺と夫婦って事にしちまって悪かったな。」


「いえ…私、何も言えませんでしたから…助かりました。」


顔に熱が溜まり熱くなったが、それでも土方に、《悪くないのだ》と伝えるために言葉を紡ぐ。


「そうか…。ありがとな、斎藤。」

そういって笑った土方が、とても綺麗でうっとりと見惚れていた斎藤は、ポツリとこぼした土方の言葉を聞く事ができなかった。


「…お前だから、誤解されたままでいいと思っちまった…」







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