願わくば貴方が幸せであることを【13】

「ねぇ…一君、少し手合わせしない?」


「あぁ、かまわん。」

道場に入ると、すぐに総司が持ち掛けてきた。それは、再会してから密かに機会がくるのを心待ちにしていた事に対する申し出で、迷うことなく承諾する。


「まさか腕、落ちてないよね?」

「それは、やってみればわかるだろう。」


お互いを挑発するようなやり取りをしながら竹刀を手にし、位置につく。


「え、朔さん!まさか、その格好のままするつもりですか!?」


朔の今の服装に気づき、慌てて止めに入る千鶴。


その声に、斎藤は着ているものを確認し眉をひそめる。


白と黒のボーダーが入ったシャツ(黒ネクタイ着用)と黒い膝上のタイトスカートが一つになったワンピースに薄手の黒の柄付きのタイツ…明らかに運動には不向きな格好だ。(ちなみに、服は姉がコーディネート)



「…問題ない。」


「え、でも…。」


「そんなに激しく動くほど打ち合うつもりはない故、大丈夫だ。」

未だに心配そうに、オロオロとする千鶴だが、これ以上は無駄と判断したのか何も言わなくなった。

「待たせたな。やるぞ、総司。」

「大丈夫なの?一君」


「あぁ、問題ない。」


総司は、やれやれといわんばかりの態度で笑うと、すぐに竹刀を構える。


「では……。」


「それじゃぁ……」


「「いくよ(ぞ)!!」」










千鶴は、ハラハラと目の前で行われる竹刀の応酬を見守っていた。

「どこが、《激しく動くほど打ち合うつもりはない》なんですか!思いっきり、動いてるじゃないですかぁ…。」


がっくりと脱力し、二人を見る。

お互い、隙を見つけては打ち込み
打ち込まれては避ける

その繰り返しだ。


斎藤は、小柄な体を生かし素早く攻撃に転じる。しかし沖田も、上手くそれを避けている。


「怪我しないといいけど…。」

心配そうに二人を見つめていると、ふと人の気配を感じそちらに目を向けると、懐かしい面々が揃って同じように沖田と斎藤の試合を見ていた。



「おいおい…すげぇな、あの子。」

「なぁ!総司と互角にやる奴なんて久しぶりに見たよ。」


「にしても防具も付けずにやるなんて、危ないだろーが。」



永倉、藤堂…そして原田の姿。


懐かしく人達、何より愛しい人の姿に涙が溢れてくる。



「おめぇら、防具も付けずになにやってやがる!!」


そして低く厳しい声が、周りに気づかずに打ち合っていた二人を怒鳴り付ける。


「っ……!」

「はぁ…軽く打ち合うつもりだったんですよ。まぁ、うっかり二人ともエスカレートしちゃいましたけど。」


「あのな、お前はともかく、斎藤が怪我したらどうすんだ。」


呆れたように溜息をつき総司を見ると、今度は斎藤に目をやる。


斎藤は、目を伏せしゅんと肩を落とし落ち込んでいた。



本当に、最初は軽く打ち合うつもりだったのだ。



ただ、打ち合っている内に夢中になってしまい結局、お互い本気になってしまった。


「全く、お前も怪我をするような危ない真似すんじゃねぇよ。」


「はい、申し訳ありません…。」

周りを見ずに、熱中していた自分が恥ずかしくて…情けなくて、じっと足元を見ていると《はぁ》っと溜息の音ともに、頭に手を置かれる感覚に顔を上げる。

「でも、かなりの腕だな。総司と互角にやり合う奴なんざ、そうそういねぇ。たいしたもんだ。」

そういって頭を撫でてくる土方さんに、胸が熱くなる。


右差しの俺を、武士として認めてくれたように


女の身であってもまた、土方さんは認めてくれた。



それが、何より嬉しい。




あなたに認められる事が、何よりの喜びなんです。





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