願わくば貴方が幸せであることを【12】
高校に入学し、初めての週末を迎えようとしていた。


無事、剣道部に入部することができ、来週からは授業も部活も本格的に始まる予定だ。


そして土曜日である今日、総司に誘われ千鶴とともに待ち合わせ場所である3つ隣の駅に居た。


「沖田さんは、どちらにいらっしゃるんでしょうか?」


「まだ、来ていないようだな。ここで待っていれば、そのうち来るだろう。」


そわそわと落ち着かなさげに周りを見る千鶴に、くつりと笑うと《落ち着け》と頭を撫でる。


「ほら、来たぞ。」

前方から、ゆったりと歩いてくる姿が見えた。


「一君も千鶴ちゃんも、お待たせ。千鶴ちゃんは全く変わってなくて、良かったよ。」


目の前まで来ると、にこにこと笑いながら千鶴を眺める。

「はい!沖田さんも、お変わりないようで良かったです。」


「あはは、それは僕が昔から成長してないって事を言ってるのかなぁ〜。」


「ち、違います!そんなつもりで言ってません!」


「千鶴ちゃんも、遠回しに厭味をいうようになったんだね。」


「そんなんじゃありませんから!」

「…総司、いい加減にしろ。」


にやにやと楽しそうに千鶴をからかう総司と、涙目の千鶴に溜息をつき頭を抱える。

千鶴を背の後ろに庇うように立つと、キュッと腕の当たりを握るのを感じた。


「何ていうか…昔もよく見た光景だけど、今はすっごく違和感を感じるんだけど。」

千鶴が斎藤の背中の後ろに隠れるのは、前世でも日常と化していたので(殆ど、僕が千鶴ちゃんで遊んでたからなんだけどね)見慣れた光景ではあるのだが、今は斎藤が女であるため、とてつもない違和感を覚えた。


…姉妹みたいで、可愛らしいんだけどねぇ


過去をしる側としては、少々複雑な気分に陥る。


「さて、いつまでも此処にいても仕方ないね。行くよ。」


「待て、何処に行くのだ。」


「いいからついて来て。着いてからのお楽しみだよ。」


「「……。」」

そう言って、スタスタと歩いて行ってしまうため、慌てて(一人は呆れたように溜息をつき)ついていった。









「 此処は……!」


総司に連れていかれた場所は道場だった。門前に掲げられている看板には【試衛館】の文字。


「僕が、通ってる近藤さんの道場だよ。」


《記憶がないはずなのにさ、みんな此処に集まるんだよ。不思議だよね》

そう呟き、悲しげに苦笑する総司に、俺も千鶴も言葉が出なかった。


皆が記憶などない中、たった一人だけ覚えてる


どんなに昔の話を共用したくとも、出来ない


それは、とても辛いことに思う。


それに一人堪えていたのかと思うと、強い罪悪感が沸き上がる。


「総司…。」

「沖田さん…。」


「やだなぁ、そんな顔しないでくれる、二人とも。ほら、中に入るよ。」


そういって笑みを浮かべながら、俺と千鶴の腕を掴み、歩き出した。




まさか、ここで全員集合するとは、この時の俺は思っていなかった。





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