願わくば貴方が幸せであることを【11】
剣道部が活動している、体育館に入ると、そこには土方さんと…佐之の姿があり、思わず息を呑む。
「ん、総司に…斎藤か?」
「なんだって、土方さんと佐之さんが二人揃って、こんなトコにいるんです?」
「こんなトコって、お前な…。それに、今は学校なんだ、先生をつけろ先生を。」
「はいはい、すみませんでした。で、何してるんです?」
「あんなぁ、俺と原田は剣道部の顧問と副顧問なんだ。部活の様子を見んのは当たり前だろうが。」
「えー…土方さんが、顧問なんですかぁ?やだなぁ、道場と変わんないじゃないですか。つまんないなぁ。」
「総司…お前な…」
「はいはい、二人ともそこまで。そこの子が、呆れてるぜ。」
総司と土方さんの掛け合いに、パンパンと手を叩き止めに入った原田は、苦笑を浮かべ
「悪いな、驚いたろ?えーっと…」
「斎藤…斎藤朔です。」
やはり覚えてはいないか…。
「そうか、斎藤な。斎藤は、マネージャー志望って事でいいか?」
「いや、入部希望ですが?」
「は、マジでか!?」
何故、マネージャーではなく入部を希望しただけで、こんなにも驚愕されるのだ?何か、おかしな事を言っただろうか。
佐之だけでなく、土方さんまでもがコチラを見て驚いた顔をしている。
「な、何か問題でも…。」
「…いや、問題っーか何っーか…女子部員がいないんだが、それでも大丈夫か?」
「はい、構いません。」
ポリポリと頬を指で掻きながら、困ったような表情で土方さんを見る佐之、眉を寄せ難しい表情の土方さん。
…女の身体では剣道部に入れぬのだろうか…
「いいじゃないですか、女の子が入部したって。本人が入りたいって言ってるんだし、大丈夫だって言ってるじゃないですか。それに、ここ別に女子はダメなんて決まりなかったですよね?」
-そんなんパンフレットに一言も書いてありませんでしたよ-
その総司の言葉に、土方さんは渋面を作り、溜息をついた。
「斎藤、女子だからって優遇はしない。それでいいな?」
「はい!よろしくお願いします。」
「…まだ、今は見学の段階だ。しっかり見て、それで良ければ入部しろ。」
そういって苦笑すると、ポンと俺の頭を撫で土方さんは去って行った。
「まぁ、あんま無理すんなよ?総司、見ててやれよ?」
そう言い残すと、佐之もまた去って行った。
「……女は面倒だな。」
女の身だという事実が、色々とこういった場では、相手に気遣いを強いてしまう。
今なら、昔…預かりの身になったばかりの頓所の中、居づらそうにしていた千鶴の気持ちが分かる気がする。
最初は珍しいと思った。
あの総司が女子と親しそうに接する姿など、見たことがなかった。一見、にこにこて笑っていて人当たりもいいが、実際は一線を引いていて、自分達…道場仲間以外の人間には、深く関わらない傾向が総司にはある。
それは、今でもそうだが
唯一の例外が、たった一人いる。
それが、自分が受け持つクラスの生徒でもある、斎藤朔だった。
斎藤は、周囲の生徒と比べ、かなり大人びた雰囲気をしている。
ピシリと伸ばされた姿勢の良い、凛とした佇まいに、落ち着いた物腰…そして容姿も良い
何人かは、声を掛けようとしたようだが、どうやら斎藤の出す空気に諦めたようだった。
そんな中、総司は話し掛けるし行動も共にしている。
斎藤も、総司には心を開いているように見える。
所謂、似合いのカップル誕生ということだろうか。
だが、そう思うと何故か苛立つ。胸の奥がモヤモヤと黒いモノが渦巻くのを感じる。
解らない。何が、こうも自分を苛立たせるのか…。
「斎藤朔…。」
その名前と、その姿に強く違和感を抱くのは何故だ。
「なんだってぇんだよ。アイツは俺の生徒だろうが…。」
ただ、一つ…俺は昔にも、こんな風に悩んでいた。それだけを感じた。
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