願わくば貴方が幸せであることを【9】
翌朝、俺と千鶴は夜遅くまで起きていたせいで、珍しく遅刻ギリギリの時刻に起きる事になった。
慌ただしく支度をし、千鶴や薫と共に学校に向かう。
途中、二人と別れる道に差し掛かった所で、薫から散々気をつけるように告げられたが…薫は心配性過ぎる。
つらつらと、薫の心配性をどうしたらよいのか考えつつ教室に入ると、既にクラスの半数は揃っているようだ。
そこには、総司の姿もあり内心落ち込んでしまった。
(あの総司よりも、遅く来る事になろうとは…)
「おはよ、一君。なんで、僕の顔見た途端にガッカリしたのかな?」
にこにこ笑いながら近づいて来るも、《そんな失礼なことないよね。斬っちゃうよ》とでも言ってるような、真っ黒い空気を背後に出している…ような気がする。
「別に、そんなことはない。あんたの気のせいだ。」
鞄を机に掛け、総司に向き直ると妙な表情を浮かべ、マジマジとこちらを見ている総司の姿が目に入ってきた。
「…何だ。」
「いや、一君もそんな女の子らしいモノつけるんだなと思って。」
そういって俺の髪、正しくは結っている髪留め(白いシュシュ)に触れてきた。
「ん…ああ、これか。昨日、入学祝いに千鶴から貰った。」
「ふーん。まぁ、一君が自分でそういうの買うわけないか。」
《興味なさそうだし》
そう小さく呟いた総司の言葉に、むっと眉を寄せるが事実なので反論せずにいた。
「じゃぁ、今から学級委員を決める。まずは、委員長だな…やりてぇ奴は手ぇ挙げろ。」
土方先生は教卓の前に佇み、教室内を見回すが、皆そわそわと落ち着かない様子ではあるが誰も手を挙げる事は無かった。
それに困った様に笑い、髪を掻き上げる姿に周りの女子生徒が小さく黄色い悲鳴を上げるのが聞こえた。
どうやら既に女子からは慕われたようで、そこかしこから《土方先生に近づけるなら〜》と似たような言葉が放たれている。
そんな中、一人手を挙げた人物がいた。
「沖田、お前がやるのか!?」
明らかに、《まさか、お前が》と動揺しているのが分かる。
正直、俺も驚いた。あの総司が、自分から面倒な事をやるなど…。
「あはは。まさか、そんなわけありませんよ。僕がそんな事するわけないじゃないですか〜。」
「じゃぁ、何だって手ぇ挙げたんだ。」
にこにこ笑う総司に対し、ひくりと口元を引き攣らせながら話す土方さん。
…この光景も昔はよく見たな。
場違いにも程があるが、懐かしさが込み上げきて、ほわっと心が温かくなる。
「学級委員長には、斎藤さんが良いと思いまーす。推薦ってありですよね。このままじゃ、決まらないし。」
「は…?」
いきなり自分の名前を上げられ、うっかり間抜けな声を発してしまった。
「お前、決まらないからって勝手に押し付ける真似すんじゃねぇよ。」
呆れたような態度の土方さんに対し、総司はむっとした表情を浮かべ
「違いますよ。斎藤さんなら、真面目だし委員長として、しっかりやってくれそうだから言ったんです。」
「…そうか、悪かった。沖田はこう言っているが、どうだ斎藤?」
「え…。」
《やりたくねぇなら、ハッキリ言って良いんだぞ》
そう言葉をかけ、こちらを見てくる土方さんと視線が合わさってしまい、声が出ない。
困惑し総司を見ると、にやにやとこちらを見ていた。
「………やります。」
結局、土方さんに言われると断る事ができないは生まれ変わっても変えられなかったようだ。
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