願わくば貴方が幸せであることを【8】
「千鶴…総司から知らされたのだが、近藤さん達も生まれ変わり、今を生きているそうだ。」
「そ、それじゃ…また、皆さんにお会いできるんですね!」
本当に嬉しくて堪らないとはしゃぐ千鶴の様子に、胸が痛くなる。
「千鶴…。落ち着いて、聞いてくれ。土方さんも佐之、新八も教師として薄桜学園にいる。しかし総司が言うには…近藤さん達には記憶がないそうだ。」
「え…」
みるみると顔を強張らせ、ぱくぱくと口を動かすだけの千鶴を見ていられず、顔を俯かせる。
「…実際、土方さんは俺のクラスの担任として現れたが記憶などない様子だった。」
「…そう、ですか。」
必死に涙を堪えているのだろう、ぎゅっと手を握り締めながら無理矢理だと分かる笑顔を作る千鶴が、痛々しく切なくて…。
千鶴の体を引き寄せ、抱きしめる。
「無理をするな…。泣くといい。」
そう言い、宥めるように背中を撫でると小さく嗚咽が聞こえてくる。
「っ…わかって、たん…ないかも…って。でも…」
-佐之助さんなら、覚えててくれるんじゃないかって-
記憶がないかもしれないと思ってはいても、どこか期待してたんです。
そう、泣きながら切々と訴えてくる千鶴の言葉が胸に突き刺さる。
「すまぬ…。本当なら、こんな知らせ等ではなく、喜ばしい知らせをしてやりたかった。」
抱きしめる手に力を込め、千鶴の肩に顔を埋める。
すまない、すまないと謝り続けてうると背中に温もりと、優しく撫でられる感触に顔を上げると、千鶴が涙を流しながら笑みを浮かべていた。
「どうして、朔さんが謝るんですか?朔さんは、 皆さんの事を教えてくれたじゃないですか。それに事実を隠さず教えて下さいました。」
謝る必要なんて、無いんですよ。その言葉と共に、ぎゅっと抱き着いてきた。
千鶴と二人…しばらく抱き合ったままでいた。
「きっと、俺は佐之に恨まれてしまうな。」
顔を上げ、くつりと笑う。今の、状態は佐之にとっては複雑に違いない。あの頃は千鶴と、抱き合うなど有り得ぬ事であったはずが、今こうしている現実に佐之には申し訳ないが、少々嬉しく思う。
「ふふ、すっかり忘れてしまった佐之助さんには文句をいう資格はありません。それに朔さんだから、良いんです!私の大事なお兄さんで、お姉さんなんですから。」
悪戯っ子のように笑うと、ぎゅっと手を握ってきた。
「そうか、それは光栄だ。あんたも俺の大事な妹だ。だから、もし佐之が思い出したら一発殴らないと気がすまんな。」
「ふふ、私も!私も、殴っちゃいます。」
「あんたがか?」
人の事ばかり思いやり、何より傷つける事を厭う千鶴が【自分も殴る】等と言うなど、驚いてマジマジと眺めてしまう。
「はい!」
にこにこ笑う、その姿に【千鶴にも思うことがあるのだろう】ということにした。
だから、斎藤は知らない。まさか千鶴が殴るといった対象が佐之助ではなく、土方だという事を…。
斎藤の想いを千鶴も知っている。なので、何も言わずにいた斎藤が自分と同じ様に傷ついていることも感じていた。
だから、その原因となった土方には記憶が戻ったら文句の一つも言わないと気が済まないのだ。
その日
斎藤は、佐之助の記憶が戻ったら一発殴ると
千鶴は、土方の記憶が戻ったら文句を言う
それぞれの胸に堅く誓ったのであった。
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