黒薔薇は華麗に咲く【2】

「お嬢様!」


城から監視付きではあるが解放され、嫁入りまでの支度のため1週間の猶予を与えられた一が久々に我が家である屋敷に戻ると、乳母であるウメが泣きながら出迎えてくれた。



ウメは化粧で隠しているが顔色は悪くやつれていた。前はふくよかだった体型も少し痩せた印象を受けた。


「ウメ…」


一は、そのままウメに抱きついて泣いてしまいそうになるのを堪え、俯いた。




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「…あんまりでございます!」


ウメの悲鳴地味だ言葉に一は悲しげに微笑むと、「そうだな…だが、決まったことだ。」と静かに告げた。


「しかし、お嬢様は何もしていないというのに、一方的に婚約を破棄するどころか謂れのない罪を着せて捕えて…そのうえ、あの残虐皇帝との結婚だなんて!あんまりです!」


しくしくと泣きながらウメが、あの皇帝は薄ら笑いを浮かべながら、次々と人々を処刑していってる。税の取り締まりも厳しく、少しでも欠けると処刑される、大柄で醜い男だというと、噂で聞く薄桜国の皇帝の事を語り嘆いた。


「ウメ…父上と母上は…」


かすれる声で一が尋ねると、ウメは悔しそうに唇を噛み締め首を横に振った。


「そうか…やはりな…。」


どうせ、あの人達のことだから『 王妃に慣れぬのなら、どうでも良い』との考えなのだろう。
元々、冷めきった夫婦ではあったらしいが、一の物心がついた頃には、どちらとも屋敷にはおらず、乳母であるウメをはじめとする使用人達によって一は育てられた。


それでも野心家の父は王子の婚約者になった事で、1度だけ王妃教育を頑張るようにとだけ声を掛けてきた程度の関心は持ってくれたようだが、それもなくなったいま私に価値はなくなったのだろう。



「…ウメや使用人達には礼を言わないとな。こんな私を大事に育ててくれたのだから。」


寂しそうにそう告げる一に、ウメは「何を仰いますか。何の非の打ち所のないお嬢様に育ってくれて、皆喜んでおりますよ。こんな、などと仰らないで下さい。」と椅子に座る一の両手を握り締め語る。



「ふふ、皆と離れてしまうのは寂しいが、1人でもその言葉で頑張れそうだ。」



「お嬢様…ウメも薄桜国にお供いたします。」


「ウメ…何を言ってるの。この間、孫が産まれたと喜んでいたばかりじゃないか。」



眉を顰め困惑を顕に告げる一に、ウメはきゅっと目を吊り上げ「孫には息子夫婦がおります。ババの出る幕はありません。」と言う。


「でも、もう会えなくなるのに。」


「それはお嬢様も同じことです。息子には嫁も子供もいます。ですが、お嬢様はおひとり…お嬢様は失礼ながら、私の娘と思っております。娘が1人で見知らぬ場所へ嫁がされようとしてるのです。黙って見送るなど出来ません!」



「ウメ…」


ウメの言葉に一の目から我慢していた涙が零れ落ちた。


親の愛は受けられなかったが、こうして愛してくれる人がいる、それが堪らなく嬉しかった。



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