黒薔薇は華麗に咲く【1】

これはあんまりではないか…。



ガタガタと揺れる馬車の中で斎藤一は、行儀よく揃えた両手を握り締め、唇を噛んだ。


公爵家に生まれた一は、幼い時に国の第1王子と婚約していた。もちろん親が決めたことで政略結婚もいい所だったが、相手の第1王子とは幼馴染みのような感じで良い関係であった。将来王妃になるための教育に日々を費やすのも、仕方ない事だと割り切っていたし、これが己の務めと思い努力した。



なのに


なのにだ…。



『 俺は一嬢との婚約を破棄する。』


元婚約者の言葉を思い出し一は深くため息をついた。良家の子女が通う学園に通いだして1年が過ぎた頃、婚約者である第1王子に親しい女性徒がいると噂で耳にした。親しくしていた令嬢が、眉を顰めながら彼女の経歴を教えてくれた。何でもとある男爵の愛人の子で最近引き取られ貴族になったばかりだとか。まぁ、よくある醜聞である。だから、一も気にもとめなかったし、その女性徒のことなどに関心もなかった。


その女性徒は、王子だけでなく宰相の息子や騎士団団長の息子など国の要職につく子息とも仲が良いそうで、他の女性徒達から反感を買っていた。



そして、学園の卒業パーティでのこと。
寄りにもよって王子は公衆の面前で一に婚約の破棄を申し出たのだ。


しかも


嫉妬にかられ、その女性徒レイナ嬢に様々な嫌がらせをしたとの冤罪を擦り付けられて。


もちろん一は身に覚えがないと反論もしたが、問答無用とばかりに、あれよあれよと捕らえられてしまった。



そして、申し渡された処分というのが、隣国である大国薄桜国の皇帝に嫁入りだった。その皇帝というのは悪名だかく鬼と呼ばれ、歯向かえば親、兄弟も容赦なく処刑する冷酷な男であるという。薄桜国は、あまり国交を持たずにいるため戦やら何やらで流れ出た情報しかなく、とにかく薄桜国の皇帝は残忍で恐ろしい男と名高い。確か数年前には一の国と戦し、我が国は負け戦で何とか和睦を結ぶことが出来たはずだ。そんな元敵国に、表向きは親善の為の嫁入りとなるが、実際は体のいい人質である。



正直、幼馴染みで仲良くやってきてた筈の婚約者をあっさり裏切り、罪を作りあげ他の女と婚約するような男に未練も欠片もないが、だからといって敵国の、しかも何の情報もない胡散臭い皇帝と結婚なんて、あまりにも酷いのではないだろうか。何もしていないのに…。
せめて婚約破棄で終わって欲しかった。





ガタガタと揺れる馬車の中で、憂鬱とした気分のまま一は目を閉じた。




どうせ死ぬなら、潔くスパッと逝きたい。


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