暗殺計画
「もうさ、斬っちゃっていいかな」
今、新撰組は最大のピンチを向かえていた。
世の人々が眠りについているはずの丑三つ時。広間には局長をはじめとする幹部達、そして雪村千鶴が寝巻姿のまま集まっていた。
「ほんと、もう我慢の限界なんだけど。へったくそな歌が大音量で流されて眠れないし、不愉快だし。もう、斬るしかないよね」
「はは…そうだな。静かな眠りの為には殺るしかねぇよな」
「………ああ。」
いつもの笑顔のままだが、殺気が隠せていない総司。いつもの煩いくらいの騒々しさが、すっかり成りをひそめ、覇気のない永倉と原田。
「局中法度に反したっーことにして斬っちまうか…。」
「…御意。」
「ふふ……私も斬りたいですー。」
眉間にこれでもかっというくらい深い皺を寄せ、苛立ちの原因がある方を睨む土方。一見、普段通りに見えるが、既に刀を握り締めている斎藤。寝不足からか、精神が壊れかけてきたのか、小太刀を握り締め虚ろな笑いを浮かべる千鶴。
「…みんな、すまん。俺の力が足りない為に。」
ガックリとうなだれ男泣きする近藤。そして、それすら気づかずある人物の殺害計画を立てる幹部と千鶴。
混沌
何故、ここまで混沌な状況になってしまったかというと…
ある人物による騒音によるものだった。
その人物はここ数日の間、深夜に大音量で歌うという騒音を立てていた。
注意しようにも、近づくのも躊躇うくらいの大音量
何より被害者を苦しめたのは、かなりの音痴であることだった。
初日に、キレた土方が怒鳴り込みに向かったのだが、途中で吐き気をもよおし進めず未遂に終わった。
その後、近藤と土方で注意をしたのだが
「まぁ〜、ワタクシ皆さんが安らかに眠れるように子守唄を歌ってましてよ。隊士達には、休息が必要だと思いますの。そのためにワタクシは…」
と延々と続く演説を繰り返し、何の効果もなかった。
それ以来、殆どの隊士は寝不足に陥り身体的にも、精神的にも限界を向かえつつあった。
「殺害するにしても、斬るのは止めといた方が良いでしょう。伊東派の連中に、こちらを攻撃する口実を与えてしまいます。殺すなら、確実にこちらがやったという痕跡を残さない方がいい。」
「えー、んな事いっても、どうやって殺すんだよ。」
「ふふ…毒殺なんてどうでしょう?疑惑は持たれますが、証拠としては不十分では。」
殺害方法について、丸い眼鏡を不気味に光らせながら語る山南と、不気味なくらい無表情な藤堂。
「いや、やっぱ斬っちまう方がいいぜ。今までの恨みを晴らしておかねぇとな。」
「ふふ、僕も斬っちゃっいたいなぁ。だって、毒殺しても僕の気が済まないし。」
「私は、静かに眠れるなら、どちらでもいいです〜。」
「いっそ、伊東派の奴ら全員消すか。」
それもいい手だと、虚に笑いだす土方。
もう、誰にも止められない。
どうする、新撰組!
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