はじめくんの災難
ピシャーン!
雷鳴が鳴り響く夜。
薄暗い部屋の中、一人の男が何かを手に持ち高ぶる感情を抑えきれぬといわんばかりに身体を震わせ高々と声を発す。
「ふふ…ついに、ついに完成しました。」
-誰に呑んでいただきましょうね、ふふ-
丸眼鏡をキラリと光らせ怪しげに笑うのであった。
【はじめくんの災難】
それは、ある少女によって発見された。
そう…とある事情で男装し新撰組に見を寄せている雪村千鶴が、朝ご飯の支度の当番に姿を現さないその人物を心配し、部屋を尋ねたのがきっかけだった。
その人物は、とても真面目で寝坊だったり、ましてやサボるなんて事は考えられず、もしや体調が悪いのではと様子を見に来たのだった。
しかし、実際は想像していたような事ではなかった。
「さ…斎藤さん、ですよね?」
千鶴は、頭が真っ白になり悲鳴を上げそうになるのを堪え、必死に目の前の現実を理解しようとする。
「………。」
無言で頷く、目の前の人物…斎藤。
(ええぇぇ!夢、夢なのかな…いやでも…))
混乱する一方の千鶴。
「ちづる。しっかりしろ。」
いつもの淡々とした口調ではなく、舌ったらずで幼げな話し方な斎藤。
そう、斎藤は縮んでいた。およそ三才児くらいな大きさである。
「は、はい!すみません、斎藤さん。でも一体、どうして…。」
「わからぬ。おきたら、こうなっていた。とりあえずは、ふくちょうにほうこくしなくては。」
子供の姿になっても、斎藤は斎藤のようだ。
立ち上がり歩こうとするが、寝巻きまでは縮んでくれなかったようで、当然の如く裾を踏み付け、ポテリと転んでしまった。
「ぅ…。」
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄り、抱き上げると怪我がないか確かめる。
「も、もんだいない。」
そうは言うが、千鶴を見てくるつぶらな目は痛みのせいか潤み、ふるふると体は小刻みに震えている。何より、無意識なのかは分からないが、自分(千鶴)の着物をぎゅっと握る小さな手が堪らない。
(か、可愛いぃぃ!ちょ、何なんですか、この可愛らしさは。ヤバいです、斎藤さん!この可愛らしさは犯罪です。はっ…是非、土方さんや皆さんにも見ていただかなくては!)
あまりの斎藤の可愛らしさに千鶴が内心悶えていると、くいっと着物を引っ張られる。
「ち、ちづる…その、すまないがふくちょうのへやまでつれてってもらえないだろうか?」
「はい!喜んで!!」
「う、かんしゃする。」
かなり勢い込んだ千鶴に驚きながらも、無事に辿り着けそうだと安堵する斎藤であった。
つづく
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