月影【7】

「見事に何もねぇな。」


雁国を見た土方は、苦笑を滲ませそう言った。ほぼ更地といっていい雁国は緑もなく、本当に何もなかった。最初に見た時よりも荒廃が進んでいる気がする。責任を感じ項垂れていると、ポンっと頭を撫でられた。どうでもいいが、土方の手は毎回絶妙に角を避けるので、撫でられるのも嫌いじゃない。顔を上げると土方は、にっと笑い「いっそこの方が好き勝手やれていいかもな。」と言った。



「さて、大任をもぎに蓬山とやらに行くか。」


「はい。」


□□□□□


正直あんな形で出奔した一としては蓬山に行くのは気が進まなかったが、避けて通れない道なので腹を括って蓬山へと向かった。



「延麟!」


女仙の1人が一の姿を見つけ驚きに目を見開くと、急ぎ駆け寄ったきた。


「延麟、お帰りになったのですね!」


ホッとした様子の女仙に申し訳なくなり一は「すまない。」とボソリと告げた。それに隣に立っていた土方がくつりと笑うと女仙は、訝しげに「延麟、こちらの者は?」と尋ねてきた。


「…雁国の王だ。あちら…蓬莱にいたのを連れてきた。」


「まぁ!主上をお見つけになられたのですね!おめでとうございます!そうなれば、皆に主上と延台輔の帰還を知らせねばなりません。」


そういうと女仙は嬉しげに駆け出し、一と土方は後に続いた。




「延麟…いえ延台輔、ご帰還心よりお慶び申し上げます。」


「小春。」



にこやかに出迎えたくれた、己に1番世話を焼いてくれた小春に一は「飛び出してすまない。あれから何年経った。」と聞いた。それに小春は困ったように笑うと「10年程になります。」と告げた。



10年、そんなに経ってしまったのか。


そう思うと心が軋む。その間民たちは、どのような思いでいたのだろう。



□□□□


申し訳なさから居心地の悪い思いを感じながらも、何とか吉日に登極の諸々の儀式を済ませると、玄武の背に乗って雁国の王宮へと向かった。



玄英宮は、天にも届くかというくらい高い切り立った崖の上に建てられていた。初めて見る王宮にポカンとしながらも、出迎えた官吏達により王宮の中へと入る。



「…凄い。」


雲海のというのも話には聞いていたが、見るのは初めてだ。



今日から、ここで暮らすのか。



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