月影【13】
里家に身を寄せて半年ほど経った。暮らしぶりも分かったし、実際の税の徴収についても里家の子供達から聞いて、怪しい州を見つけた。そろそろ1度玄英宮に戻るかなと思っていた時だった。
「トシー!」
少し街から帰ってきたら秀英がニヤニヤ笑いながら手を振っていた。あれは揶揄うネタがある笑いだなと、苦笑いすると秀英の元へと向かった。
「どうした?」
「トシにお客さんだよ。」
「客?」
誰だ。俺に訪ねてくるようなやついたか…。
「おう。美人だったぜ。藍色の長い髪が綺麗な女の人。そういや、延麟は藍麒なんだよなー。」
一じゃねぇか!!そして、秀英は何か気づいたのか!?意味深過ぎてドキドキするっーの!
「そ、そうか。それで客は?」
「圓杜の部屋にいるよー」
ニンマリと笑う秀英にひやりとしたものを感じながら、圓杜のところへと向かうべく足を進めた。
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圓杜の部屋に入ると、上座に一が下座に圓杜が座っていた。
「主上…」
「おう、久しぶりだな、一。」
ひらりて手を上げると一はほっとしたように微笑んだ。一が上座から横にズレたので苦笑しながら、そこに座った。
「で、わざわざお前自らどうした。何かあったのか?」
「これに御名御璽を…。」
そっと押し出された書類に頭痛がしてきた。こんなに溜まってたか。
「分かった。後で押す。これだけか。」
「はい。それと…」
言いにくそうに口籠もる一に、どうかしたのかと首を傾げていると「いつ…お戻りになられるつもりですか?」と目を伏せいかにも寂しげに言うので、胸が痛む。
「あー、そろそろ1度戻るつもりだった。」
「…そうですか」
安心したように顔を綻ばせる一の頭を撫でると圓杜に「そういう訳だから、世話になったな。圓杜」と告げた。圓杜は平伏すると「勿体なきお言葉ありがとうございます。」と言った。
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