月影【12】


「トシって何者?」


秀英の訝しげな問いかけに土方は首を傾げた。何者と言われてもな…。不思議に思っていると秀英は溜め息をつくと「海客っていうけど、冬器持ってるし考えてみると身なりも良かった。ただの海客じゃないでしょ。」と言った。


「俺を拾ってくれた奴がくれたんだよ。護身用にって。」


「随分と金持ちに拾われたんだな。」


「まぁな…。」


これで納得してくれたか、と思っていると秀英は「拾った奴って女だろ。」と聞いてきた。


「まぁな。」


嘘じゃない、冬器を寄越した一は女だ。だが、それがどうしたというのだろう。秀英はニヤリと笑うと「やっぱりなぁ。あんた蓬莱でも女に貢がれてたんじゃねぇの。顔がいいやつは得だねー」と言ってきた。


「なんだよ、羨ましいのか?」


ニヤリと笑い返すと土方は秀英の頭を撫でる。土方の胸元辺りにある頭は非常に撫でやすい位置にある。


「うっせぇよ。」



ペシリと手を除けると秀英は、「チビ達には手を出すなよ!」と悪戯っぽく笑った。


「馬鹿、出すかよ。」


笑いながら、そういうと土方は皆の所へと向かった。



早めに妖魔を始末したのが良かったのか、犠牲者は数人で済んだ。里木の周りに集まっていた人々は、皆安堵した様子だった。



「あ、トシ!ほんと、凄かったよ!トシってば1人で妖魔を2匹倒したんだ!」


子供達が興奮冷めやらぬといった体で語るのに、大人達は「そうか、そうか」と言いつつも半信半疑といったところだった。



「無事で良かった、秀英、トシ。」


「圓杜!」


圓杜は土方にこっそりと目礼を寄越すと駆け寄った秀英の頭を撫でた。


「まだ妖魔が出るんだな。」


「直に出なくなるじゃろう。雁には新王が居りますからな。」


髭を撫でながらそう言う圓杜に秀英が「王様って、どんな人なんだろ。確か胎果なんだろ。」と言った。


「ああ。素晴らしい人じゃよ。きっと雁を豊かな国にしてくれるだろう。」



「ふぅん。」



やめてくれ、気恥しい。




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