互いにA
「雪絵、って…名前変えたのか」
戻ってくると「まぁ、そりゃそうだよな」と納得したように頷いている土方の前に再び座り「はい。今は藤田雪絵と名乗っております。」と固定した。
「あの子は?」
「近くに住む孤児でお華といいます。こんな俺の何処が気に入ったのか遊びに来ては、話し相手をしてくれています。」
「そうか。お前にもそんな相手が出来たか。」
ふっと優しげに微笑む土方に一の胸は苦しくなる。そうだ、この人はこんなにも優しく笑う人だった。誰よりも優しく、それでいて不器用な人だった。
「副長…」
気付いたら、そう言葉が飛び出していた。告げなくてもいい想いだろう。けれどこのまま秘めたままにするには気持ちが大きすぎる。何よりもう2度と会えないかもしれないのだから、告げてしまってもいいのではないだろうか。いや、頭でぐるぐると考えるよりも前に口は既に開いてしまっていた。
「ずっと…お慕いしておりました。」
「斎藤…」
軽く目を見張った土方は、すぐに動揺を治めたのだろう、目を伏せ「過去形か?」と呟いた。そして、「まさか斎藤に先を越されるとはなぁ。」と考え深げに言うと「俺もお前の事、愛してる。」とサラリと告げた。
それに目を見開いたのは斎藤で、言葉も出ずに口をはくはくと動かすと「し、しかし、俺は女です」と、何とも頓珍漢な答えを返していた。後から考えれば混乱しきっていたのだろう。出てきた答えがそれだったのだ。
「…そうか。で、何が問題だ。」
「お、驚かないのですか?」
ずっと騙していたというのに。罵倒の一つや二つ受けても仕方ないと思っているのに。
「まぁ、そんなん端から気づいてたって言えりゃ格好がつくんだがな…。男を好きになったと気づいた時の驚きの方が大きかったんだよ、こっちは。男だと思っていても好きになったんだ、女であったって問題ねぇだろ。」
バツが悪そうに、でも目をみて告げる土方の言葉に一の頬に涙が伝う。ほっと力が抜けほろほろなみだを流す斎藤を土方は抱き締めと「俺の気持ちを軽くみんなよ。」と笑いながら頬に流れる涙をそっと拭った。
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「…で、結局着いていくことにしたんだ。」
ぶらぶらと縁側に腰掛け足を揺らすお華に、気まずげに明後日の方に視線をやる斎藤は「…ああ。」 とだけ答えた。
あれから話し合い斎藤が蝦夷に行く事に落ち着いた。いや、話し合いだけではなかったけれど。思い込みかもしれないがお華の視線が痛い気がする。
「まぁ、私としては寂しくなるけど雪絵が幸せになるならいいと思うわ。沼田くんは可哀想だけど。」
「うっ…彼の事はしっかり断る。」
「当たり前でしょ。もう、しょうがないわね!!それと、いい加減男装辞めなさいよね!旦那も出来たんだし、髪なんて伸ばしゃいいんだから。」
「しかし…「しかしも案山子もない!」」
<●><●>カッっと目を見開いて言い放つお華の迫力に斎藤も頷くしかなかった。
「幸せになんなさいよ、バカ」
「ああ、ありがとう。」
おわり
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