【8】
薄桜学園に入ってから、誰々さんは誰と婚約していて等という話が耳に入ることも多く、最初はまだ学生なのにと驚いたが、お金持ちだしなとそういうものなのかと今では「そうなのか」と流せるようになった。
なったが、まさか自分も婚約者持ちだとは思ってなかった。しかもS4などという学園のアイドル的存在の中心人物…バレたら間違いなく過激なファンに制裁される。どんなことをされるのかは知らないが、あえて知らなくても良い事だと思う。
「…っというわけなので、学校内での接触は避けて欲しいのです。」
「そんな風に言われると、あえて大勢居る前で声を掛けたくなるよなぁ」
目の前で椅子に優雅に座りつつ、にやりと笑う土方に一はさぁっと青褪める。そんな事されたら一気に制裁…いや、たかが少し声を掛けられただけでそんな、まさか…。
「婚約者な訳だし、別に悪いこともねぇし、不自然でもねぇだろ。」
「それは…そうですが…」
どうにも上手く言葉が出て来なく言葉が淀む。そりゃ婚約者ともなれば普通に言葉は交わすだろうし、むしろ無視する方が可笑しい…けれど。
「そういやな、もうすぐハロウィンだろ。この学校では毎年パーティが行われるんだが、男女ペアでの参加が基本なんだ。」
「は、はぁ…そういえば最近、妙にクラスメイトがそわそわしてたと…」
土方の言葉に生徒達の妙な空気の原因が分かり納得したと同時に、学校全体でパーティだなんてやはり金持ち校…と思っていた。
「と言うわけだから、今年の俺のペアの相手はお前だよな。婚約者なわけだし?」
「そ…」
そ、そうなるのはわ、分かる。けれど、この人と組んだら目立つことは眼を瞑ってでも分かりきっている。
「わ、私、パーティなんて出たことありませんし、どんな格好をすればいいのかも…」
参加しないという道は無いのかと及び腰になりつつ言葉を紡げば土方はきょとんと瞬いた後、にっと笑うと「服ならこっちで用意するし、なんなら一緒に買いに行くか?その方がお前も好きなの選べるだろう。」と親切にも申し出てくれた。
「…参加は絶対ですか…?」
「一応、学校行事だしな。」
「…そうですよね…」
もう、どうにでもなれ。
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