【6】
目の前にはS4の中でも中心的存在らしい土方歳三。そんな人物が何故自分なんかを呼び出したのか…。可能性としては人間違いか。そうであってくれ。
「あの…何かご用でしょうか?」
逃げ出すのを堪えるのに必死で俯いても仕方ないだろう!そもそも男子と二人っきりで話すなど初めての事なんだから!
「用というか…お前、俺のこと覚えてねぇのか?」
「え…」
驚きに勢い良く顔を上げマジマジと見詰めるが、さして心当たりがない。しいていうのなら、何だが懐かしい?ような変な違和感がある。
「…人間違いでは?」
「人間違いねぇ…両親は斎藤護、智花で一人っ子。昔、薄桜公園の近くに住んでいて良く遊んでいた。そんでもって女なのに剣道が好きで道場に通いたいと我が儘いったが、直ぐに引っ越すことになったので断念した。そんな条件にピッタリな奴が他にもいると思うのか。」
スラスラと上げられる一の幼い頃の事柄を述べる土方に呆然としながらも、ふるふると首を横に振った。
「で、思い出さねぇか?」
この言い方では、どこかで会ったことがあるんだろうが…。恐らく子供の頃の話なのだろうが。
「たく…結婚の約束までして、随分と薄情なもんだよなぁ。」
ドンッと片手を一の頭の横がわの壁に付くと覗きこむように顔を近付けてきた土方に、一は頬を赤らめるとウロウロと視線を泳がした。
どうしよう、こんなとこ見られたら一気にアウト…結婚の約束?あれ?何か身に覚えが…え、まさか…
「あ…あの、もしかして良く遊んでくれてた…」
そういうと土方は美しく整った顔でにーっこりと笑うと「漸く思い出したか。ひでぇよな、俺はしっかりと覚えてたのによ。な、一ちゃん。」
何故だろうか、笑っている筈なのに妙に怖い気がするのは。
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