【13】
「…送っていただいて、ありがとうございます。」
土方家の車が横付けされた我が家の前で、わざわざ車から降りてきた土方にペコリと頭を下げる。とりあえずパーティー中は側にいて、色々と気をつかつてくれた土方のお陰で嫌な目に合うことはなかったし、楽しめた。休み明けが不安だけれど、彼には感謝すべきだ。
「ああ…。そうだ、Trick or Treat」
「へ…」
ポカンとする一に土方は口角を吊り上げニヤリと笑うと「ハロウィンと言えばコレだろう?それで、Trick or Treat…どっちだ」と告げる。
「どっちと言われても…」
菓子なんて持ってない。へにょりと情けなく眉を下げた一に土方は「ぷっ」と吹き出してくつくつと肩を揺らして笑い出す。
「なっ……」
何もそんな笑うことないじゃないか!!頬を赤に染めパクパクと口を開け閉めする一に土方はにっと笑うと「お菓子がないなら、イタズラだな」と言うと、ぐいっと一の肩を引き寄せちゅっと掠める様にキスをした。
「ごちそうさん。じゃ、また来週な」
ひらりと手を振りさっさと車に乗り込んだ土方を呆然としたまま見遣り、そしてばっと両手で唇を覆った。
滑らかに走り出す車を見送りながら、一は赤くなった顔でそのまましゃがみ込んだ。
き…キスされた…
(…私のファーストキス…)
日も暮れて肌寒さを感じる中、一は赤くなった顔を覚ますため暫く家の前でしゃがみ込んでわたわたしていた。
□□□□□□□
(ああ、やっぱり…)
月曜日、登校した一を待っていたのは生徒達の好奇の目だった。突き刺さる視線にウンザリしながらも教室に行けば、戸惑った様子のクラスメイト達。
そんな中、親しくしてくれている友人達が好奇に満ちているが笑顔で挨拶してくれて、一はホッと息を吐いた。
「おはよう。まさか、斎藤さんの婚約者があの土方様だなんて、驚きましたわ!」
「斎藤さんってば、幼馴染みとしか仰らないから、私もう驚いて夢かと思って婚約者の頬を抓ってしまいましたわ。」
ころころと笑う彼女達に、一は俯いて恥ずかしそうに「ごめんなさい。その…言い出しづらくて…」と謝った。
「ふふ、それなら仕方ありませんわね。」
「お昼休みに、お二人の馴れ初めを詳しく教えて下さるなら許してさしあげるわ」
顔を見合わせイタズラっ子のように楽しげに笑う彼女達に一は馴れ初めって…と困ったように微笑んだ。
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