destiny【1】

何故、自分が…


中学に入って直ぐに行われた検査でΩであると診断されたことに、高校に入り2年が経つというのに斎藤一は納得出来ずにいた。


この世には6つの性がある。男女、そしてα、β、Ω。αは遺伝子的に優秀な者が多く大企業のトップや政治家、スポーツ界など様々な面で活躍する者も多く社会的にも優遇されている。βは特に変わったところのない普通の性。Ωは男女関係なくα、βの異性との子作りが可能な繁殖種として、昔は性奴隷なんて非人道的なことさえあったというほど社会的地位は低い。今ではいくらか改善はされているが、それでもΩに対する差別は根強く残っている。


斎藤が何より受け入れ難いのは、男である自分がいづれ誰かの"女"となり子を産む立場であるということ。昔気質の祖父の躾により男は男らしくあれという考えの斎藤には受け入れ難い事実であった。


家族はそんな自分を暖かく見守ってくれてはいるけれど、いつか自分を受け入れられるだろうか。


そう悩みながら進学した高校で、まさか運命とも呼ばれる出会いがあるとは思っていなかった。


入学式の時のこと、進行を務めていたあの人を見た瞬間、背筋にビリッと電流が走ったような感覚と熱くなった体温に式の最中にも関わらず動揺のあまり固まってしまった。そして、『ああ、この人が自分の運命の番というやつか』と本能で悟った。それでも自分はΩという性を受け入れられない。だから、その事は自分の胸の奥底に沈め浮かんでこないようにした。



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「そういや、お前はまだアレは来てねぇんだよな?」


体育準備室の中でふいに切り出された言葉に斎藤はきょとんと瞬くとコクンと頷いた。斎藤がΩであることは学園では校長、保険医の山南先生の他に、目の前にいる体育教師の原田左之助だけが知っている。何故体育教師の原田がというと、原田もまたΩであるからだった。


「そろそろ来てもおかしくねぇ頃合いだし、薬はちゃんと持っておけよ。あと、分かってると思うがそんときゃ公休だ。馬鹿真面目に学校に来たりするなよ。」


「…分かりました。」


未だに何かの間違いじゃないかと思いたいが、それで自衛を疎かにする訳にもいかない。誰彼構わず襲われるなんて御免だ。


「原田先生は…」


「ん?」


柔らかく笑っている彼に口を開きかけるも言葉が出てこない。そんな自分の頭をポンッと撫でると原田は、「あんま深く考え過ぎるなよ」と笑ってみせた。



いくら少ないとはいえΩが自分だけではない事は分かっている。運命の番を見つけて幸せに暮らしているΩがいることも知っている。でも彼らは最初から受け入れられていたのだろうか…。特に男性のΩは自分が孕む側な事をどう受け入れたのだろうか。



男である自分


Ωである自分



両方を受け入れることが出来る日は、いつか来るのだろうか。



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