金盞花【8】

「…随分と無茶をする」


暖かくなったとはいえ、身体を冷やしては風邪を引くのも当然というもので、翌日一は熱を出し寝込んでいた。


白い頬は熱で赤くなり呼吸も通常より早い。額に濡らした手拭を乗せ冷やしてはいるが、一向に下がる気配はない。


人の町で暮らしていた経験もある村の唯一の医者に見せたが、恐らく疲れていたものが出ているのだろうと、絶対安静という診断を受けた。


「「ととしゃま」」


そろりと障子の影から小さな顔が覗き、しょんぼりとした様子でコチラを伺っていた。性が違うというのに、それ以外は本当にそっくりな2人に苦笑を浮かべ、歳三が手招くとぱたぱたと歳三の両脇に座り抱きついてきた。


「かかしゃま、だーじょぶ?」


「なおりゅ?」


不安そうに歳三と一を交互に見遣りながら、泣きそうに歳三の着物に顔を埋めるチビ達の背を摩りながら随分と懐いたものだと溜め息をついた。


幕府により攻め込まれたとき、この二人は漸くよたよたと歩き始めたばかりの頃で、言葉も単語が少し出てくる程度であった。それ故、その頃のことをあまり覚えていないだろうし、鬼と人と事情など解るはずもない。けれど、人見知りで歳三以外にはべたりと甘えることもないチビ達が、どういう訳か最初から一には興味を持っていた。今では、『ととしゃまのおよめしゃんだから、かかしゃまー』といって懐いている。


正直な所、かか様というより姉様だろうと思わないでもないが、本人が何も言わないので好きにさせている。


「も、かわいかないの」


「ない」


ぐすぐすと泣き出したチビ達を「はいはい」と宥めながら、一の額の手拭を濡らして戻す。




□□□□□


一が重い瞼を開き、ぼんやりとする視界の中きょろりと見回すと、歳三が傍らに座っていてパチりと目を見開いた。


「ああ、起きたか」


静かにそう言うと手を伸ばし一の額に触れてくるので、一はますます訳がわからなくてオロオロと視線を泳がす。


「昼間よりは下がったが、それでもまだ熱がるな」


「…ねつ…?」


きょとりと呟いた一に、歳三は呆れたような顔で溜め息をついた。


「お前、熱出して寝込んでること自覚してなかったのか。」


「……」


熱…そういえば、朝起きたら何だか身体が重くてそれで…記憶がない。歳三の言葉から考えると、倒れてそのまま今まで寝ていたということだろうか。


「…すみません。」


こうして側で看病してくれていたのだろうか…。迷惑を掛けて申し訳ないという気持ちと嬉しいという感情がごちゃまぜになり、恥ずかしくて布団を顔半分まで引き上げる。


「まぁ、慣れない土地で色々あって疲れも出たんだろうとさ。医者から絶対安静と診断されたからな、暫くは部屋にいてゆっくするんだな。チビ達にも騒がないように言っておく」


「いえ、あの、大丈夫ですから。熱が下がれば…」


「駄目だ。チビ達は別にお前と一緒なら部屋の中でも充分楽しむだろう。」


むにっと頬を軽く引っ張られ「いいから休め」と呆れたように溜め息をつかれ、一は眉を下げ「はい」と大人しく頷くしかなかった。


「チビ達が傍にいるって煩かったから、此処に寝かせた。悪いな」


さらりと告げられた言葉に部屋の中を見ると、一の布団のすぐそばに小さな布団が敷かれ、そこに千鶴と薫が仲良くすやすやと眠っていた。



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