金盞花【5】

「もういいかい?」


「もーいいよ」


外から聞こえる声に読んでいた書物から顔を上げると、どうやら隠れんぼをしているらしく一がきょろきょろと辺りを見渡し、隠れている千鶴と薫を探していた。


すっかり千鶴と薫は一に懐き、あっちこっち一を引っ張り回しては遊んでいる。無理をさせているようなら、それとなくチビ達共を引っ捕まえて大人しくさせようかとも思ったが、大丈夫そうなので任せている。


(ああしていると子供らしいな…)


千鶴を見つけ、ふわりと笑顔を見せる一を眺め溜め息をついた。


歳三の前では緊張で強ばっていることが多い一も、チビ達の前では安心するらしく年相応に子供らしい顔を見せる。



「…親は哀れだな。」



本来であればまだ手元に置いて大事に育てていたろうに。

そう心の中で呟くと書物に目を戻した。



幕府からは一は水戸藩当主の息女という話だった。人質である以上、それなりの抑止力がなくては意味がない。しかし、実際に調べ一にも聞いたところ、1旗本の娘でしかないという事だった。別に、あちらが申し出て来たものだし、個人的には欲していなかったから今更文句を付けるつもりはないが、断る事も出来ない弱い立場のものに押し付けるとは、幕府には呆れ果てた。



「ととしゃまー」


薫の声に顔を上げると笑顔でぶんぶんと外で小さな手を振って歳三を呼ぶ。


「どうした。」



縁側に行き薫の頭にポンッと手を乗せ撫でると、えへへっと笑いながら「ととしゃまも、おしょとであしょぼ。あんね、かおりゅね、かわにいきちゃいの」


ぐりぐりと手のひらに猫のように頭を擦り付ける薫に歳三は苦笑すると「仕方ねぇな」と草履を履き薫を抱き上げた。





□□□□□


はしゃぎ手を繋ぎ走る千鶴と薫の後を歳三と一は並んで付いていく。一は遠巻きに見てくる村人の視線に居心地悪そうに体を縮こませながらも物珍しそうに辺りを見回していた。


「どうした」


歳三の声にハッとこちらを向くと、少しばかり恥ずかしそうに目を逸らし「すみません…その、キレイな景色ですね」と言った。


「ああ……昔は、もっと綺麗だったんだがな」


少し緑の剥げた箇所を眺めながら告げた歳三の静かな言葉に同じ方向を見やり一は 首を傾げた。





きゃっきゃと川の辺で石を拾って遊ぶ千鶴と薫に川には近付かないよう注意すると、その様子を眺めていた一の隣に立つと口を開いた。



「お前は、何て聞かされて嫁に来た?」


一は歳三を見上げパチりと不思議そうに瞬くと、「和睦の証だと言われました。」と答えた。


「何故和睦までの過程は、どの程度まで知っている。」


「…鬼と呼ばれる一族かいて、その一族と戦をしたが予想外に長引いた。これ以上長引くのは良くない故、和睦を申し入れたと…」


違うのですかと不安そうに聞く一に、歳三は苦虫を噛み潰したかのような顔で舌を打った。


「大事な部分は省かれているようだな。」


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