金盞花【3】

嫁いでから5日とたったが、あれ以来夫に会うこともなく一は何をするのも許されず与えられた部屋で、ただ外を眺めて過ごしていた。


今日も美しい青空が広がり青々とした光景が広がる中、ぽつんと部屋に座っていた一だったが、小さな子供の声が聞こえ見回してみると、ちょこんと縁側の淵に小さな手が4つ見えた。


そして、ひょこんと顔を覗かせた2人の子供に一はパチりと瞬きをして首を傾げた。

まだ年の頃は2つ、3つだろうか。そっくりなあどけない顔はニコニコと笑い一を見ている。


「「あのねー、あげゆのよー」」


そうにこにこ笑っていうと手を繋いでとてとてと行ってしまった。
どうしたらいいのか分からずにいた一は、漸く我に返り、おずおずと縁側に行くと白と黄の小さな花が2輪ずつ置いてあった。


「……」


そっと置かれていた花を手にとると、あの子達が歩いていった方を見て、一の顔が小さく笑みを浮かべた。




□□□□□□


祝言以来、初めて顔を合わせた妻は訪れた歳三にパチりと瞬き、それからはっとし見るからに戸惑いを顕にしたので、知らせを遣るべきだったかと後悔した。


「…あ、あの…すみません」


見るからに縮こまり落ち込んだ様子の一に歳三は「何で謝るんだ」と眉を寄せ言う。


「その、折角いらしてくれたのに失礼な態度をしてしまったので…」


ぎゅっと両手を握り締め俯く一に、土方は溜め息をついた。


「何か、不便な事はないか。」


「いえ…ありません。」


静かに首を横に振る一に、「そうか」と返すと机の上に飾られた小さな花が見えた。


「あの…」


「何だ」


緊張した面持ちでこちらを見てくる一に歳三は眉を寄せると、一は躊躇いを見せるが意を決したように口を開いた。


「な、何かお手伝いさせていただけないでしょうか?草むしりでも、雑巾がけでも何でも構いません!」


「は?」



何もしないでいるのは、心苦しいというか、その…


申し訳なさそうに告げてくる一に歳三は何とも複雑そうな顔で「女中として雇ったわけじゃねぇんだが」と呟いた。




□□□□□□


ここに来てから5日ずっと部屋に篭ってただ外を眺めていたと聞き、そら退屈するわと呆れた。別に軟禁や監禁してるわけじゃねぇんだし、こっちの迷惑にならねぇ程度に好きにしてくれりゃ良かったのにと思いつつも、実際のところ難しいだろうなと溜め息をつく。



だからといって草むしりやら願い通りにやらせることも出来ない。それは既に他の者の仕事で、それを違う立場の人間がほいほい奪っていいものではない。


「ととしゃまー」


「ととしゃまー」


とたとたと言う足音と共に千鶴と薫が駆け込んできた。


「何だー、ご機嫌だな」


とんっと抱きついてきた二人を抱きとめると、二人の手に見覚えのある花が握られていた。


「あのねー」


「ととしゃまにあげゆの」


にこにこと笑いながら握っていた花を差し出してくる二人に、ふっと笑みを浮かべると「ありがとな」と頭を撫で受け取る。


触れしそうにくふくふ笑う二人に、一の部屋に飾られていた花を思い出す。



「なぁ…お嫁さんにもやったのか?」


そう聞くと二人は目を丸くして「どぉってわーったの?ととしゃま、しゅごいねー」とキラキラと目を輝かせた。



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