金盞花【14】

あくまでも推測で事実はまだ分からねぇ。例え内通者がいたとしても、それが今ここに住んでいるやつらかそうでないのかも分からねぇ。だから、お前は変に疑いを持つ必要もない。


だが…気を付けろ。人でしかも自らの意思で嫁いで来たわけでもないお前は、万が一の時は利用されかねない。



そう真剣な顔で告げた歳三の言葉を胸に自室に戻った一は、小太刀を見つめ唇を噛んだ。



幕府を、将軍を絶対とする中で生きてきて敬い育ってきた一の中に、嫁いでから芽生え始めた幕府への不信感がむくむくと大きくなってきていた。


幕府にもいろいろ事情があるのだろう、だが一には理解出来ないし、酷いという思いしか浮かばない。


ぎゅっと胸元を握り締める一は、何を信じていいのか分からなくなっていた。



□□□□□


「ととしゃまー、かかしゃまー」


可愛いお花を探すのだと村の子供達の輪に入っていた千鶴と薫が駆け寄ってきた。見つかったのかと思ったが、何も持っている様子はない。


「どうした?」


しゃがんでやると、二人は一と歳三をチラチラと見ると「あのね」と同時に口を開いた。


「あのね、はるちゃんと、りきちちゃんはととしゃまと、かかしゃまといっちょにねてりゅんだって」


「なっちゃんと、かちゅくんも!」


高揚し頬を赤くし目をキラキラと輝かせるチビ達に、歳三は次に続く言葉を予想し頬を引きつらせた。



「「ちーもかおりゅも、ととしゃまと、かかしゃまといっちょにねちゃい!」」


「……」


予想していたとはいえ、こうも期待に満ちた顔をされると気まずさに視線が僅かに泳ぐ。
隣にいる一も無言だが困惑しているのが伝わってくる。


「あらあら、いいじゃありませんか。」


ふふふと近くで聞こえていたらしい村の女が微笑ましそうに笑いながら言ってきた。それに…


「夫婦ですもの、何も不都合はありませんわ。ねぇ、さちさん?」


「ええ。それにお子様方のためにも良いと思いますわ。」


にこにこと笑いながら「何も同衾しろとは言ってないんですもの。ただ、同じお部屋で眠るだけですわ。ふふ、当主様は案外初でいらっしゃるのかしら」と穏やかに言いつつも、まさか嫌と言ったりはなさいませんわよね?と脅しを掛けられているような気がする。


「あー…その…」


歯切れの悪い歳三に千鶴と薫は「だめなの?」とうるうるし始めたので、歳三は降伏するしかなかった。




□□□□□□


「かかしゃま、おはなちして」


歳三と一が両箸にし、千鶴と薫を真ん中にするようにして布団をしいて寝る頃になるとチビ達のテンションは最高潮に達し、きゃぁきゃぁと楽しげな声を上げ一に本を読むよう強請っている。


予想通りの光景に歳三は最早溜め息すら出て来ない。一に懐いているチビ達が夜、寝る頃にも一が居るとなると寝るどころじゃなくなると危惧を抱いていたからこそ、すんなり良しと言えなかったのだ。


チビ達に言われるがまま物語を読んでいる一の声に耳を傾けながら、歳三は早く寝てくれと祈っていた。




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