金盞花【13】

その日の夜、少し何かを話したそうな様子の一に気付き、歳三が何かあったのかと聞けばパチリと不思議そうな顔をしつつも、「あの、聞きたいことがあるのですが…」と切り出した。



千鶴と薫は、大人しく二人で布団に入りうとうとしているから、放っておいても問題ないだろう。月明かりと蝋燭の灯で照らされた歳三の部屋に向かい合うようにして座り一が口を開くのを待つ。



「…村の女性達から聞いたのですが、こちらには鬼ではない人もいるのですね。」


「ああ…知らなかったか。昔は鬼も人も共存して生活していたらしいから、その名残かもな。村の連中だって、全ての人が憎いわけじゃねぇさ。」


歳三の言葉に頷きながらも、一は「では、鬼という存在を知る人もそれなりにいるということでしょうか?」と首を傾げる。


「いや、お偉いさんの1部しか知らねぇよ、今は。ここに住む人間も村から出ることは少ねぇからな。」

「そうですか。」


それっきり黙ってしまった一に歳三は、何事かあったのだろうかと疑問に思っていると、ひどく難しそうな顔をした一が畳を睨み付けるかのように見ていた。


「…幕府は…鬼ではない…人もいると知っているのでしょうか。」


固く震える声は、僅かに否定してほしいという響きを感じ歳三は視線を障子にやりながら溜め息をついた。


ここで嘘でも否定してやることは可能だが…。


「…鬼はあまり人の世と関わるのは良しとしない。唯一、関ヶ原の合戦の際、鬼の一族の中でも東と西と分かれ協力したが、それきりだ。それ以来は人の世には関わらすに村には結界まで張って暮らしている。なのに、何故一年前幕府はここ迄攻め込む事が出来たと思う。」


歳三の言葉に考えるような仕草をした一だったが、もともと賢い娘だ、直ぐに答えに行き着いたのだろう。


「無論、術に詳しい奴がいたんだろうが、それよりもだ。2百年前にちらりと協力しただけの鬼の住処が、何故見つける事が出来たのか。」


「…内通者がいたと?」


一の言葉に歳三は口元をにっと吊り上げ笑うと障子から、一に視線を移した。


「無論、確証も何もねぇ。ただの俺の推測だがな。しかし、少なからず鬼の知識もあったようだし、そう疑っても仕方ねぇ話だ。」


鬼といっても一枚岩でもない。この村以外にも鬼はいるし、一族もいる。どっから情報がいったかは知る由もないが、油断はしない方がいいってことだ。そう告げると歳三は、俯く一の頭を撫でると「人だろうと、鬼だろうとめんどくせぇよなぁ」と呟いた。




内通者


それは決して他の奴等には言わないが、歳三の中で密かに思っていた事だった。
それが外の鬼なのか、それとも村の中かは分からない。しかし、村の場所や結界を正確に破った事が、偶然などでは済ます事が出来ない疑問を抱かせた。


誰が


何が目的化は分からないが、それでも自分にはこの村を守る責任があると当主である歳三は思い定めていた。




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