金盞花【11】

日が暮れた途端に降り出した雨は時が経つにつれて激しくなり、雨戸は風に煽られガタガタと鳴り雨音と共に雷まで鳴り出したのは、丁度夕飯を終えた頃合で千鶴と薫は怖いと泣いて歳三にしがみついていた。


「…随分と荒れだしたな。」


千鶴と薫を抱えながら雨戸を見遣り呟く歳三に、一は詰めていた息を吐き出し頷いた。


雨戸を閉めていても雷の光を隙間から感じ、ずくに聞こえてくるゴロゴロという重い音に知らず知らず体に力が入る。


千鶴や薫のように小さな子供ではないのだから、怖いと歳三にしがみつく訳にもいかない。


(大丈夫…大丈夫…)


胸の中で何度も自分に言い聞かせるが、体の強ばりは解けることなく、それどころか増すばかりだった。


「こわいのー…ごろごろ、やぁー!」


「「うぇぇぇぇぇん」」



泣き喚く千鶴と薫をあやしていた歳三が、ふいに一を見ると眉を寄せた。


「お前は…」


歳三が何かを言いかけた時、一際大きな雷の音が鳴り響いた。


「ひぃっ」


一はびくりと震えるとぎゅっと両手で耳を押え蹲るようにして小さくなる。


怖い


怖くて涙が滲むけれど、歯を噛み締めて堪える。もう子供ではないのだから、雷が怖いなんて泣いたらいけない。泣いても傍に父上も母上もいないのだから、我慢しなくては…必死に自分に言い聞かせても涙は引っ込んでくれない。



「仕方ねぇな」


そんな声と共に大きな手が頭に触れた。
驚いて顔を上げると、愚図っている千鶴と薫を片側の腕に張り付けている歳三が溜め息をついていた。


「我慢せずに、怖いって泣きゃいいだろうが。」


呆れたように言うと一の濡れた目元を手で拭うと、わしわしと一の頭を撫でた。


「…す、すみません…」


何だかホッとして体から力が抜けた。が、その時また大きく雷が鳴ったものだから、一は思わず縋るように目の前の歳三にしがみつくように抱き着いた。



雷が鳴る度、震え泣く子供3人を抱え歳三は困ったように溜め息をついた。







「あの…本当に申し訳ありませんでした。」


未だ雷の音は聞こえているが、いくらか落ち着きを取り戻した一と共に部屋に布団を敷いていく。チビ達二人は泣きつかれて眠ったので、寝かし付ける手間が省けたので、さっさと真ん中に引いた布団に寝かせた。


本来なら一は自分の部屋がありそこで寝起きしているが、落ち着いたとはいえ雷の音が聞こえる度ビクつく状態で戻れというのは気の毒で、本日はこの部屋に寝ることになった。


「…おやすみ」



「おやすみなさい」


そういって灯を消したのだが…。


雨音が気になって眠れない。そんな神経質なわけでもない筈なのだが…。ごろりと寝転がれば、チビ達を挟んで一と目が合ってぎょっとする。


「あ、すみません…」


「いや…眠れねぇのか」


そう聞くと小さく頷いた一は、「雨…すごいですね」と小さな声ではあるが感心したように呟いた。


「ああ。煩くてかなわねぇ」


忌々しそうに顔を顰める歳三に、一は口元に小さく笑みを作り「でも…こんな風に貴方と話せるのなら、嫌いじゃないです」と言った。


「…あんなに雷にビビってたのにか。」


意地悪げに歳三がそう言えば、一は少しムッとした顔になると寝返りを打ち反対側を向いてしまった。


「…雷は嫌いでしたけど…今日、そんなに嫌いでもなくなりました。」


ポツリと聞こえてきた声に歳三はくつりと笑うと「そうか。」とだけ答えると目を閉じた。




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