【19】
総司と一の教室まで、それほど遠い訳ではないので無言のまま着いてしまった。まだチャイムがなるのは先なので、教室には人はいなかった。荷物が置いてある席もあるから遊びに出ているのだろう。
一は、机に向かおうと足を進めるが「あ、あのさ、斎藤くん。」と呼び止められ振り返ると、総司は気まずそうに少し俯いていた。
「…何だ?」
「あの…ごめん。」
いきなりの謝罪に一は目を瞬くと首を傾げた。
「謝られるような事を、された覚えはないが…?」
「僕が、君の事何となく苦手なんて言っちゃったから皆まで真似して君の事無視するようになっちゃったから…本当にごめんなさい。」
「………。」
ペコンと頭を下げる総司を一は驚き目を見張った。
「その…沖田くん。俺は、無視されていたのか?」
「え…?」
驚いた顔の総司とどことなく気まずそうな顔の一はしばし無言で見つめ合う。
一としては、総司にいわれるまで気づかなかった事柄だし、気にもしていなかったことだ。
総司としては、自分の一言のせいでと罪悪感でいっぱいで、まさか当の一が気づいてなかったとは思ってもいなかった。
「え…ほんとに?本当に気づいてなかったの?君が話し掛けても無視して違う子に話し掛けたりしてたじゃん。」
「いや…タイミングが悪かったのかと…」
「「………」」
また暫し無言で見つめ合うと、徐に総司が愉快そうに吹き出し笑い出した。
「あはは、もう…君って…おもしろい、ね…ぷはっ」
肩を揺らし笑い続ける総司に、さすがの一も恥ずかしさに頬を赤らめながらムッとした顔を作り睨み付けた。
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