虹の先【6】
定時を回り、足早にエントランスへと向かっていると見知らぬ女性に呼び止められた。
「…何か。」
「少し聞きたい事があるの。ちょっとお時間いいかしら?」
ばっちりと施されたメイクが顔を飾り、シックなグレーのカジュアルスーツな身を包んだ彼女は隙のない美人と見えた。
「……申し訳ないが「大丈夫、時間はとらせないわ。5分でいいの。」
チラリと腕時計を見て断ろうとしたが、それを遮るように申し出る彼女に、一は諦め頷いた。
エレベーターホールから少し離れた自販機の前に移動すると、彼女はじっと一を見ると口を開いた。
「結婚、するそうね。」
「……それが、何か。」
会った事もない見知らぬ女性に、自分の結婚は関わりもないだろうに…。
「いえ…ただ、相手はどんな方かと思って。」
「…貴女になんの関係が?」
きゅっとカバンを握り締めると、じっと見返すと、彼女はふっと笑みをこぼすと「そうね、関係ないわね。ごめんなさい。」と肩を竦めた。
「もういいだろうか。」
「ええ…時間をとらせてごめんなさい。ああ、それと結婚おめでとう。………溝口って子には気をつけなさい。あの子、社長に本気だから、貴女の相手が社長だろうと違う人だろうと、暴走しかねないわ。」
「…迷惑な話だ。」
顔をしかめると、「ホントにね。幸い、社長と同時期に結婚し退職する女性が一人というのは知っていても、それが貴女だとはまだ彼女は知らないわ。退職まで気付かれない事を祈るわ。」と、一の肩をポンと叩くと去って行った。
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