虹の先【5】


わいわいと賑やかな社食の一角に、一と数人の同僚が昼食を取りつつ会話を交わしていた。


「そういえば、社長が結婚するでしょ。秘書課の子達、相手が社内の人間じゃないかって必死になって探してるらしいわよ。」


斜め向かいに座っていた同僚の言葉に、思わず箸を落としてしまいそうになった。


「なんていうか…すごい執念よねぇ。もう結婚が決まってるんだし、諦めればいいのに。」


「ねー…だいたい見つけて、どうするのかしら。」


「あれじゃない…『社長と別れてちょうだい。』って、事じゃない?」


「わぁ、修羅場ー」


同僚達が呆れたように冗談まじりに話す内容に、一は密かに冷や汗を流していた。


(…バレたら、とんでもない事になりそうだ。)



「そういや、斎藤さんは再来週で退職でしょ。しかも寿退社!羨ましいわー」


「え、あ…」


急に話しかけられ驚いたように目を見張る。


言葉につまる一に、同僚達は「やだ、幸せボケー?」とにやにやと笑う。



「にしても、斎藤さんが1番最初に結婚して退職とは、意外だったなぁ。」



「確かに。奥手そうだし、仕事一筋!って感じだものねー。」



「そ、うか…?」


「そうよー。ま、おめでたいわー」


にこにこ笑いながら、「悔しいから、これ食べて太っちゃいな。」と次々と一の盆にデザートのゼリーが乗せられた。




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