虹の先【14】


「いやぁ…まさかでしたねぇ」



自席に戻る途中、加藤がしみじみとした様子で呟いた。


「…?」



「まさか、斎藤さんが社長と結婚してたとは思わなかったわ。もぉー、やるわね!この、このぉー」


にやにやと笑いながら脇を突いてくる加藤に、頬を赤らめながら顔を背けた。


「ふは、もう社長は見る目あるわね!私が男だったら、ぜーったい斎藤さんを嫁に貰いたかったわ。」


胸を張り告げる加藤に苦笑するし、部署に戻るとわらわらと同僚達が集まって来た。



「斎藤さん、社長と結婚したんだって!?」



「もー、何で言ってくれなかったの?おめでとう!」



次々と祝いの言葉を告げてくる同僚達に目をパチクリさせ、気恥ずかしそうに俯いた一に、周りから温かな視線が包む。



「…ありがとう。」


はにかみ微かに笑みを浮かべながら感謝の気持ちを述べ、頭を下げる一にパチパチと拍手が贈られた。



「さて、おめでたいがそろそろ仕事に向かってくれるかな。」



穏やかな部長の言葉に、皆が笑顔で仕事に向かって行った。



「斎藤さん、結婚おめでとう。明日で最後だが、よろしく頼むよ。」



にこやかに笑う上司に頭を下げると、一は柔らかに口元に笑みを浮かべる。



入社から、ずっとこの部署で働いて来た。


失敗して落ち込んだ時も、勿論ある。でも、それを励ましフォローしてくれた同僚達がいたから、今の自分がある。



まだ一日あるというのに、何だか切なくて涙が溢れそうになるのを堪え、席につき仕事を始めた。




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