【6】
日も暮れ、予定の刻限をかなり遅れ漸く婚儀が開かれる事となった。
藍の国の重臣達に囲まれ、一姫は花嫁衣装に身を包み上座に座っていた。
本来ならば隣にいるはずの夫となる男の姿はない。
姫はチラリと横目で見遣り、僅かに柳眉を上げる。
(…やっと婚儀と思えば、夫となる男は姿を見せない。…失礼にも程があるだろう。)
チラチラと哀れむような重臣達の視線も不快でしかなく、本当ならば自室へと下がってしまいたい。
ほんの少し痺れを感じながら腰を上げた時だった。
「と、殿の御成りでございます。」
慌て声が裏返った小姓が、漸く主が現れた事を告げる。
浮かした腰を落とし、すっと深々と頭を下げる。ゆっくりと歩いて来る男の足を眺めながら、溜め息がつく。
どうやら歓迎されていないような気がする。
そっと目を伏せ、これからの事に思いを馳せ内心溜め息をついた。
遅れに遅れた婚儀だったが、その後は滞りなく行われた。
一は白い単に身を包み、蝋燭の炎がゆらゆらと床入りの支度が済まされた布団を照らしている。
一はチラリと枕の二つ並んだ布団を見遣り、ほんのりと頬を桃色に染め恥ずかしげに目を伏せた。
(や…やはり、これは…その。)
緊張に体を強張らせ、きゅっと胸元で両手を握り締める。
(この場合の、作法はどうなっているのだ…)
一緒に来た乳母に相談しようにも、今、この場に呼ぶ訳にもいかない。
もし下手な事をして、国や兄に不利な事になるのだけは避けたい。
が、どのような態度が正しいかなど知らぬ。
「…成るようになれ。」
ポツリと呟いた時、シュッと襖が開いた。
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