【5】
花嫁行列は予定通り3日程で、藍の国に到着した。
自室にと宛がわれた、きっちりと調えられた部屋に一人、凛とした様子で一は座していた。
(……婚儀は、行わないのだろうか…)
ぼんやりと部屋から見える庭を眺めながら、そんな事を思う。
城に到着したのが昨日の夕暮れだった事もあり、その日はそのまま休んだのだが…。
既に日は高く昇り、昼食も先ほど終わった。
誰かに話を聞こうにも皆、忙しそうに働き出払ってしまっている。
「……ふぅ…」
体の力を抜き、ゆったりと脇息にもたれ掛かると溜め息をつく。
(…退屈だな。)
さすがの一も些か退屈を覚え、静かに立ち上がると打掛を脱ぎ捨てると小袖姿のまま庭へと出る。
「ほぅ……」
庭は綺麗に整えられ、一の目を楽しませた。
そっと庭の松の木に触れると、ふっと笑みを浮かべる。
「っと………誰だ。」
ガサリと音を立て男の声が聞こえ、一は笑みを消し振り返ると妙に綺麗な男が後ろに立っていた。
「……。」
暫くの間、無言で男と見つめ合っていると次第に騒がしい声が聞こえてきた。
すると男は舌打ちをすると、すぐに姿を消した。
(…あの者は一体…)
ぼんやりと男が姿を消した方向を見ていると、まだ若い男達が慌てた様子でやって来た。
「失礼いたします、奥方様。
恐れ入りますが、こちらに歳三様…いえ、殿が参られませんでしたでしょうか?」
膝をつき頭を下げながら尋ねられた内容に僅かに目を見開く。
(まさか、あの者が……)
「いえ……こちらにはどなたもいらっしゃいませんでした。」
また、慌てた様子で去っていく男達を見送り、一は先ほどの男の姿を思い浮かべた。
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