【1】


戦国時代と呼ばれる世


あちらこちらの国で、天下を治めんと武将達が火花を散らしていた。


強き者が上へ上へと成り上がっていく下剋上の世に、¨鬼¨と呼ばれる男がいた。








「……縁談…でございますか。」


鮮やかな緋色の打掛に、緩やかに垂れる長い蒼黒い髪の姫は上座に座している父親に静かな口調で問い返した。



「そうよ。お前も、齢15…もう嫁に行っても不思議はあるまい。」


にっと不適な笑みを浮かべる父親を眺め姫は淡々とした口調で、「父上…私は16にございます。」と父親の間違いを指摘する。


「ふん。そんなもの、対して変わらんだろう。」


とケロリとした様子で、扇子を弄る。

そんな父親に姫は呆れたような表情を浮かべ、「それで…私はどこに嫁ぐ事になったのでしょうか?」と話を先に進めるよう促す。



「ああ、それはな…藍の国じゃ。」

パチンと扇子を閉じ、愉快そうに見てくる父親に姫は不快そうに少しばかり眉を寄せる。


「藍の……まさか…」


ハッと顔を強張らせ父親を見ると、ニタリと笑うのが見えた。



「その¨まさか¨じゃ。藍の鬼がお前が嫁ぐ相手じゃ。」



姫は少しばかり瞳に驚きをあらわにしたが、すぐにソレを消し去り冷静に父親を見据える。


「つまり…藍の国とは同盟を結ばれるという訳ですね。」



「ああ。あの国は、目覚ましいものがある。何せ¨鬼¨が治めとるからのぉ。先はともかく、今は戦わずにいたいからの。」



「要は私に人質として、あの国に行け…と。」



「そうなるか…」



ケロリとした様子で告げる父親に溜め息をつくと、


「どうせ女の身である私の意思など関係ないのでしょう。ならば父上のご命令通り、鬼にでも何でも嫁ぎましょう。ですが……もしもの時は私が父上のお命を頂きますので、覚悟してくださいませ。」

冷ややかに父親に宣言すると、打掛を華麗に翻し部屋を後にした。


「くくっ……鬼と、蝮の娘……これ以上、似合いの夫婦もおるまい。」


心底愉快と言わんばかりに肩を震わせ笑う主人の姿に、その場にいた家臣達は無言のまま体を竦めた。



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