【16】
昼過ぎに千鶴と入れ代わるようにして歳三がやって来た。
「…町へ行くが、どうする。」
素っ気ない態度ではあるが約束通りに、誘いをかけてくれた夫に微かに笑むと「共に参ります。」と素早く支度を整えた。
軽快に駆ける馬の上で、歳三の胸元に縋りながらもどんどん過ぎ去っていく景色を眺める。
道は整備され、行き交う人々の表情も明るい。
「……千鶴姫とお会いしました。」
大きな木下に座り空や田圃を眺めながら、一は隣に横になり目を閉じている歳三にそう声をかける。
「…そうか。」
眉を寄せむっとしたような表情をする歳三に、くすりと笑い「可愛らしい方ですね。貴方も随分と大事になさってるようですし」とからかうように告げる。
「うっせえよ」
ごろりと寝返りを打ち反対側を向いてしまった歳三に、一はますます笑みを深める。
(こういう子供のような面もあるのだな)
「…千鶴姫を町へ連れて行かぬのは何故ですか?」
柔らかな口調でありながら、はぐらかすなと言うような雰囲気で問う一に、土方はムクリと起き上がると溜め息をついた。
「……まだ子供だからな。」
「私にはそんな馬鹿げた理由ではないように思いますが?」
スパンっと切り捨てるように言い返した一に、土方はぐっと眉を寄せる。
「……………いろいろと面倒なんだよ。」
目を逸らす事なく見てくる一に負けたのか、土方は苦々しい口調でそう呟いた。
Next
- 17 -
戻る