【12】


その日の夜。


綺麗に整えられた寝所でゆらゆらと揺れる蝋燭の炎に照らされ、昨日とは違った面持ちで一は夫の訪れを待っていた。


少しだけどういう人物か、分かったからかもしれない。無駄な怯えもなく、体は昨日のようにガチガチに強張ってはいない。


(きっと、酷い事はなさらぬだろう。)


まだほんの少ししか接した事はないというのに、何故かそう信じている己に気づき、くすりと笑った。


その時、静かに襖が開き夫である歳三が入って来た。



「…先に寝ててかまわねぇぞ。」



少しばかり顔しかめ告げられた言葉に、一もまた眉をひそめ首を傾げた。



「…私がお待ちしてはご迷惑ですか?」



迷惑と言われてしまえば、恐らく己の妻としての立場はかなり弱く危ういものだろう。


じっと見つめていると、気まずそうに歳三は顔を背け腕を組むとボソリと呟くように


「俺は、寝るのが遅くなる時が多い。待たれても来れるかも分からん。それに、体を冷やして風邪でも引かれたら困る。」



その言葉に一は目をパチクリとさせ、ふっ…と思わず噴き出して笑った。



(…随分と気配りが…いや、不機嫌そうにしているが優しいのか)


小さく肩を揺らし笑う一に不機嫌そうに歳三は舌打ちする。



「ふふ…申し訳ありません。お心遣い感謝します。お言葉に甘えて、遅くなられるようでしたら先に休ませていただきます。」


にこりと微笑み告げると、歳三はむすりとした表情のまま頷いた。




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