愛の反対は無関心


俺は土方さんの為なら何でもした。

俺の意志だった。

隊務は勿論、間者紛いの事や、人斬り。

全て副長命令と言われるだけで完遂できた。

次々とこなしていった。

それが全てだった。

だから・・・



「なあ、斎藤。堅っ苦しい言葉じゃなくて、思ってる事をそのまましゃべってみろよ」

この言葉も命令に聞こえてしまっていた。

「会津に残ります」

「・・・なるほど、俺達の道はここで分かれちまうって事だな」

「申し訳ありません」

土方さんが何か話しておられるのだが、何故か聞きとりにくい。

「・・・しかしお前がこんなにしゃべる奴だとは思わなかったな。知られざる新たな一面ってやつか」

考えたら、土方さんと俺がこんなに喋った事は・・・なかった。

土方さんに己の意志を口にしたのは、ここが最初で最後だった。



後で思った。

俺は土方さんに一番言いたかった意志を伝えていなかった事を。

いつも俺を気にかけて下さったり、俺が傷付いたら自分の事のように悲しんで下さったり、いつもいつも俺を労って下さった土方さんを、尊敬とか羨望とかではなく慕情を持って接しておりましたと。

そう気付いた時には、土方さんはもうこの世にすら居なかった。

土方さんは先に刀を置いた俺より半年以上後まで戦って、果てた。

これを後悔と呼ばずして、何を後悔と呼ぶのだろう。



次にこの事を鮮明に意識したのは、俺が転生、すなわち生まれ変わったからだった。

物心ついた頃に生まれ変わりに気付き、と同時に近所でよく構ってくれるお兄さんが土方さんにとても似ている事にも気付いた。

いや、お兄さんは土方さんだとその後に確信を得たが、記憶は持っておられなかった。

俺を思い出されなくても、俺はあんたに想いを告げたい。

俺はひた隠しに隠した気持ちを溢れさせない様にしながら、土方さんと交流を持ち続けた。


いつからか彼が女をとっかえひっかえされようが、手にキズをつけていようが、俺はただいつもの俺でいた。


土方さんは何故かいつまでも引っ越しして一人暮らしをされなかった。

自宅を身内から譲られる形となったからだとご本人は仰っていたが、職場から少し遠く不便になっても引っ越しをされなかった。

前世の記憶のない彼に、俺は少し期待をした。

いつか俺を、俺を思い出される時が来るのでは?と。




だが、俺の方が一人暮らしをせざるを得ない状況になった。

大学進学が決まったものの、ここに住んだままでは1限に間に合わないとわかったからだった。

また別れなくてはならない。

いや、もう今度別れたら、いずれ土方さんは他の女と結婚されてしまうだろう。


俺は、進学と引っ越しを報告すべく、とある休日に土方さんに会うことになった。

もうおそらく二度と会えない。



誰とも同居されてない自宅は、幼い日にたまたまお邪魔した時より殺風景だった。

「飲みもん用意するから待ってろ」と言われ、俺はリビングのソファに座らされていた。

もう本当に最後だと。


だがいつまでも土方さんは姿を見せない。

飲み物云々より好きな人が気になった俺は、記憶を辿ってキッチンへと向かった。


「土方さん?」

「見るんじゃ・・・見るんじゃねえ!斎藤・・・」

俺は生まれ変わって初めて斎藤、と呼ばれた。

今まではずっと俺が幼い頃から変わらず“はじめ”と呼んでいた土方さんが・・・。

「俺を見るな」という土方さんは真っ青な顔で、頭を押さえておられた。

もしや記憶を?

まさか・・・まさかこのタイミングで?

俺の表情は驚きに満ちていたはずだ。


「はっ、俺はまた、お前を失うんだな・・・会津ん時と同じように」

「土方さん!いや・・・副長・・・」

次に驚いた表情をされたのは土方さんだった。

そして「お前、記憶あったのか?」とだけ問われた。

俺は無言で縦に首を動かした。



「俺は、さっき思いだしたばっかでな、ちょっと待っててくれねえか?」

リビングのソファに横になる土方さん。

まだ顔は真っ青で、もしかしたら箱館で、このようなお顔で・・・ただお独りで・・・。


はらりはらりと涙が零れ落ちる。

いや、俺は零れ落ちる自分の涙に気付いてなかった。

俺が気付けたのは、土方さんの指が俺の涙をぬぐうために俺の頬を触れて下さったから。

優しく涙をぬぐって下さる指。

「土方さん、俺は・・・俺はあんたにずっと言いたかった」

「なんだ?」とまだ血の気の戻らない顔を俺に向けて下さる。

優しく穏やかな、懐かしい笑顔を。


「俺は、あんたをずっと・・・昔からずっとあんたが好きでした。ずっとそれだけが言えずにいて・・・」


ようやく告げられた。

返事は要らない。

なのに身体は全く動かなくて。

まるで土方さんの返事を待つかの様に動かない身体。



長い沈黙を破ったのは土方さんの一言。

「なら一緒に暮らすか?お前の引っ越し先の近くなんだ、俺の職場」




俺の長い長い想いがようやく彼に届けられた日

そして彼が応じてくれた日は同日





20111113 莉宇

お誕生日おめでとうございます、鏡月様




莉宇様、ありがとうございます!わざわざ素敵なプレゼントをありがとうございますp(^^)q
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