心境
土方は、一人黙々と仕事をしながら息を着いた。
ここ暫く一が側にいた為、久しぶりに一人でこの部屋にいる事に違和感を感じる。そんな己に苦笑しながら、筆を置き椅子にもたれ掛かる。
一に無事成長の兆しが現れた事は既に宮中の者が知っている。
勿論土方は早いうちに報告を受けたが、その知らせにひそかに安堵していた事は本人以外は気づいていないだろう。
一が此処に住むようになって5年の月日が流れた。
この宮にいる者は年を取る事がない。それは外から来た者も同じで、数年もいれば成長は止まる。聡、一も既に外見上の成長は止まってしまった。
それ故、土方はひそかに一が女性としての成長は望めないのではないかと不安を抱いていた。
しかし、それも杞憂に終わり肩の力が抜けたような気がする。
「失礼します。」
ひょっこりと姿を現した千鶴を見ると、困ったような表情を浮かべていた。
「どうした。」
「お忙しいところ、すみません。あの…手が空いた時に一さんの所に顔を出してはもらえないでしょうか?」
「は?それは構わないが…」
訝しげに眉を寄せる土方に千鶴は苦笑すると口を開いた。
「どうやら土方さんのお仕事を手伝う事が出来ないのが、寂しいようでして元気がなくて…。それに体調も崩されていて…。少しでも土方さんが一緒にいてくだされば、喜ばれると思うんです!」
「あ、ああ、分かった。」
勢いに圧されながら頷くと、千鶴はホッとしたように笑い「お願いします」と頭を下げて出ていった。
(………とりあえず、様子を見に行くか…)
はぁっと息をつくと、一の部屋へと向かった。
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