迷子


迷ったらその場から動かず、見つけてもらう。



勿論、一はそんな事を知るよしもなく市場をうろうろとさ迷い歩いていた。


「…どこ…」


見知らぬ場所に一人でいる事に不安と恐怖を抱き、きゅっと両手を胸の前で握り締めキョロキョロと辺りを見渡す。


(…ちづる…さとる…りん…どこ…)


ジワジワと瞳に涙が浮かび、思わずその場にしゃがみ込む。


「お、おい、大丈夫か?」


いきなり声をかけられ、一はビクリと肩を震わせ、そろそろと顔を上げると恰幅のよい男が心配そうに伺っていた。


「ぁ…ぅ…。」


ポロポロと涙を流し嗚咽を漏らす一に、男はおろおろと辺りを見渡すと途方に暮れたように頭を掻いた。


「ぐ、具合でも悪いのかい?」


些か面倒そうなものを含めつつ聞いてくる男に、一はそろそろと小さく首を横に振った。


「…大丈夫…」


「そ…そうかい。なら、良いんだ。」


そう言うと男はそそくさと立ち去っていった。


「…っ…ひ、じかたさん…」


ぐすっと嗚咽まじりに縋るように土方の名を呼び、フラリと立ち上がりヨタヨタと歩き出した。





気づけば一は人通りのない道の隅に座り込んでいた。


「…かえれない…」


ポツリと呟くと、ますます怖くなって子供の様に泣き続けた。


(…ひとり、やだ…)


すんすんと泣き続ける一の耳に、聞き慣れた声が聞こえハッと顔を上げる。


「姉さん!」


「一さん(様)!」


慌てた様子で駆け寄ってくる三人の姿に、一はホッとしたように意識を手放した。




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