市場


地上の、湖から離れた場所にこの辺りでは1番大きいだろう村があり、村の中央では市場が開かれ人で賑わいをみせていた。



質素な身形ながら皆、明るい表情で活気に溢れていた。



そんな中に、少々異質な者達がいた。


「すごい…!」


じっと市場を行き交う人々を眺め感嘆の声を上げたのは、初めて地上の市場を見た一だった。



一は、地上の着物に身分が高い女性が外出する時に被る市女笠を被っている。周りに取り付けてある虫の垂れ衣のお陰で顔はある程度、隠されている。


傍目には、どこぞの姫君がお付きの者を連れてお忍びでやって来たと写るだろう。


目立つ事には変わりはないが、まだこの方が地上では受け入れ易いだろう。


凜や千鶴も聡も、それに合わせた地上の着物を身につけている。



「ふふ、一様…何か困った事がありましたら、すぐに教えて下さいませ。」



凜は優しく微笑むと、少し捲れてしまった虫の垂れ衣を直してやる。


「ん、わかった。」


早くも気持ちは市場へといってしまったらしく、そわそわとした様子だ。それに千鶴と聡はくすりと微笑むと、凜を見遣る。



「では、参りましょうか。」






市場は、一には目新しい物で溢れていた。物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡す一を、他の三人はハラハラとしながらも微笑ましく見守っていた。


あちらこちらから好奇の目で見られている事も気にせず、凜に「あれは?」と尋ねている。


微笑ましくはあるが、あれでは凜が用を済ます事が出来ない。


「凜さん、一さんは私達に任せて用事を済ませて来て下さい。」


苦笑しながら千鶴が話を持ち掛けると、申し訳なさそうにしながらも頷いた。



「姉さん、僕が教えてあげるから凜さんを行かせてあげて?」


「わかった。」



素直に頷く一に、礼を言うと凜は用事を済ませるために市場の奥へ姿を消した。





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